2025年3月7日、国際女性デーにあわせて、オラクルの女性社員の活躍を推進するOracle Women’s Leadership(以下、OWL)メンバーによる社内イベントが開催されました。今年のゲストは、元出前館の会長で、現在は医療DXの先駆者であるエムスリーソリューションズで代表取締役社長を務める中村利江さん。今年の国際女性デーのグローバルテーマは“Accelerate Action(アクションを加速させる)”。これまでの中村さんの軌跡をたどりつつ、女性が社会で活躍し成長していくために重要なマインドセットについてお話しいただきました。日本オラクルの役員を交えたパネルディスカッションの様子を含め講演の内容をレポートします。

Rie Nakamura
中村 利江(なかむら りえ)⚫︎富山県出身。関西大学在学中、学生起業家として活躍。大学卒業後、1988年株式会社リクルートに入社し1年目でトップセールス&MVPを受賞する。
出産退職後、ほっかほっか亭本部の株式会社ハークスレイを経て、2001年デリバリーサイト「出前館」を運営する現・株式会社出前館に入社。
飲食業界のDXに取り組み、2002年1月に代表取締役社長に就任。2006年旧 ジャスダックへ上場、2020年LINEグループと資本業務提携、時価総額2,500億を超える企業へと成長させた。
同社会長を退任後、日本M&Aセンター専務などを経て、2022年4月から医療業界のDX化に取り組むべくエムスリーソリューションズ 代表取締役社長に就任、6月からエムスリー取締役に。

「出入り禁止社員」からトップセールスに、そして逆境に負けない経営者へ

新卒1年目でリクルートに入社し、がむしゃらに営業活動をしていたという中村さん。入社当初はとにかく負けず嫌いで、自分の実績を残すために独りよがりな営業活動を続けていたと振り返ります。そんな中、取引先を出入り禁止になる失敗をしてしまい、それ以来「お客さまに喜んでもらうこと」を第一に考えるように。とにかく準備に時間をかけ、必要な情報をお届けし、提案することを続けているうちに、営業せずとも発注してもらえるまでに成長。入社1年目でMVPを受賞し、そこから中村さんの人生は変わっていったそうです。

その後、結婚し、妊娠出産のためリクルートを退社後は、ほっかほっか亭へ転職しマーケティングを担当。子どもが小さく育児が最も大変な時期に、70名もの部下を抱え、保育所のお迎え後に子連れで会社に戻ることもあったそうです。そうした姿に当時の男性上司たちからは非難され、ベビーシッター代にお給料が消えていく日々が続きましたが、それでもめげずに仕事を続けられたのは、外食産業の面白さに気づいたからだと言います。そして、世の中がインターネットでのデリバリー受注を始めていく中、ひょんな事から2001年出前館の社長を引き受けることに。

チラシよりも格段に利益率が高く、人件費も削減できる「すごいビジネスモデルだ!」と確信しながらも、当時の出前館はまだまだベンチャー企業。銀行へ融資をお願いするも、10社以上が門前払いだったそうです。その理由の多くが、会社の知名度が低いことと、女性社長だったからの2点でした。そこでこれらを払拭すべく、まずは知名度を上げるために大手ピザチェーンに営業に行ったものの、ここでも相手にされず、信頼性が高く消費者へアクセスするチャネルを持つ企業とのアライアンスが必要と考えマイクロソフトの門をたたきました。すると、大手チェーン店はじめ小さな町の飲食店も続々と加盟してくれるようになり、コロナ禍の巣ごもり需要も相まって、日本最大級のデリバリーサイトへと成長しました。

その後、中村さんはDX化の進まない医療現場へと活動の場を広げていきます。2022年、「3年で100億円の企業をつくろう」というスローガンのもと、エムスリーソリューションズの社長に就任し、目標を達成。また、若手の育成・登用に注力し、女性の従業員数比率も45%を超えるまで増加したといいます。「女性ということで差別されたり、先入観で見られることもありますが、逆手にとればいい。この状況を逆転させるためにはどうすればいいかに知恵を絞っていきましょう」と、これまでも数々の逆境を乗り越えてきた中村さんだからこその、力強いエールで基調講演を締めくくりました。

オラクル社員を交えた「女性と両立」をテーマにしたパネルディスカッション

Panel Discussion
(左下から時計回りに)日本オラクル コンサルティングサービス事業統括 Vice President 内田 聡、日本オラクル 執行役員 NetSuite事業統括 渋谷 由貴、
中村 利江さん、日本オラクル人事本部 明石 真理恵

オラクル社員を交えて行ったパネルディスカッションでは、働く女性経営者として、また応援者として、それぞれの立場から日々感じていること、意識していることについて、様々なテーマで話し合いました。

Q. 仕事と育児の両立において、チーム内で気をつけていることは?

【中村さん】当事者である女性が「すみません…」と申し訳なさそうにしている組織の背景には会社の風土があることが多いです。トップがこの状況を率先して変えていかない限り変わらないですね。

【内田】ダイバーシティは大切ですが、どうやってインクルージョンを増やしていくかが重要です。どうしたらみんなが働きやすい職場になるかを考えていかないといけないと痛感しています。

【渋谷】専業主婦家庭で育ったので、働きに行っている私自身に罪悪感がありました。しっかりと成果を出し、高いクオリティーを維持することで、納得して子どもに説明できるよう心がけています。

Q. モチベーションを高く維持しながら働くための秘訣は?

【中村さん】社長は引き受けてしまったら逃げられません。あらゆる手を尽くして「できなかったらやめればいいが、アイデアが浮かぶ間は頑張ろう」と動いてきました。そうすることで、なんとかここまで来られた気がします。

【渋谷】私のモチベーションの源泉は3つあります。①子ども達に誇れる仕事をすること、②成長企業のお客さまにもっと元気になってもらうこと、③一緒に働いているメンバーが成長して「一緒に働けてよかった」と思ってもらうことです。

【内田】後進を育てることと、自律性をどう育てていくかを常に考えています。オラクルはまだまだ成長する会社なので、追いかける楽しさがあります。

Q. 組織の女性比率を増やすためにはどうしたらよいか?

【中村さん】男女関係なくいい人材を増やすことを意識して採用していたら自ずと女性比率も増えていった気がします。あえて女性比率を決めず、年功序列制度をやめ、性別に関係のない人事改革をしていくことで、半年ぐらいで風土に変化が表れ始めました。

【渋谷】重要なのはデータードリブンマネジメントだと思っています。女性は自己評価が控えめな方も多いので、成果を数字で判断するようにしています。

Q. あなたが考えるAccelerate Actionとは?

【内田】女性比率のKPIを設定することでしょうか。マイノリティが適切な「場」を与えられないと活躍の「機会」さえなくなってしまいます。ある程度土壌に載せないといけないと考えています。

【渋谷】失敗を恐れないカルチャーを醸成したいと思っています。女性だけでなくもちろん男性も平等にケアされないといけません。メンバーが全員リーダーという意識を持ってもらう中で、管理者が完璧を求めず、7割ぐらいの情報で意思決定をして推進していく。間違えたところでやりなおせばいいんです。

【中村さん】KPIをしっかり達成しているか、チームメンバーを正しい評価をしていくことです。そういう中で、3年後の自分はどうなっていたいのかなど、一緒に考えていくと少し高い視座でチームを見ていくことができるようになると思います。

中村さんはパネルディスカッションの締めくくりに、「子育ては、人生に1度しか楽しめないこと。人間誰しも体験してみないとわからない。男性も率先して育休をとって、子育ての大変さを実感していただきたい」と、力強くお話になりました。

Panel Discussion 2

筆者コメント

自身の直感を大事に、周囲を巻き込みながら有言実行で道を切り開いてきた中村さん。どんな逆境もはねのけてしまうぐらいストイックに挑み続けるマインドセットが大変刺激になりました。パネルディスカッションでは、さまざまな立場から、育児とキャリアの両立に関するリアルな声を聞くことができました。一人ひとりがAccelerate Actionしていくことが大切だと改めて実感しました。