※本記事は、Rob TarkoffによるThe pressure is on for exceptional experiences in real-life and real-workを翻訳したものです。

前回の記事では、顧客が抱く期待とそれに伴う企業へのプレッシャーが、顧客との関わり方を変化させていることを記載しました。

2023年は、我々が過ごしてきたここ10年とは異なるものになるでしょう。顧客の期待と、マーケットの大きな力が働くことで、CXテクノロジーが、真のイノベーションを実現するために、どういった深さ・広さであるべきか、明らかになるはずです。

マーケティング、営業、テクノロジーといった領域に関わらず、先見の明がある多くのリーダーは、CX変革を、エンド・ツー・エンドのフロー、プロセス、そして従業員の体験によってもたらされる、全社規模の戦略だと見なしています。つまり、マーケティングキャンペーン、営業、サービス、サプライチェーン、請求、配送に至るまで、全てのビジネスが、お客様のデジタルライフサイクルに直結しているということです。

こうした変革の真の価値は、データによってもたらされます。

今日、企業は、顧客をよく理解し、優れた体験をデザインするために、顧客に関する貴重なデータを収集しています。顧客に関する深い洞察を得るために、ビジネス活動を通じて、スマートフォンから、顧客情報、支払い情報、OSのログといったやり取りの情報を、日常的、合法的、そして連続的に収集しています。優れた体験をデザインする先駆者は、こうした情報を、顧客を理解するためだけでなく、カスタマージャーニーにおいて起こりうる問題を先回りするためにも活用しています。

十分なデータを収集することだけが論点なのではありません。それよりも、データが、活用可能なものであり、組織のサイロから開放され、新たな顧客に関する洞察を生み出すことができるようにできるかが論点なのです。また、同時に、顧客に代わって、顧客のデータを保護することも必要です。

CXのリーダーが、以下に示す3つの重要な原則のもと、顧客のリアルタイム、かつライフタイム全体にまたがるデータを活用できるかどうかが、2023年、そしてその先の成功を左右することでしょう。

 

3つの原則それぞれについて、詳細を見ていきましょう。
 

CX

 

顧客との対話に一貫性を持たせる

一貫性とは、いつでも、どこでも、どんな場合でも、顧客体験が一つのブランドとして存在し続けることです。例えば、とある顧客が、航空会社に、チャットボットでのやり取りを開始したとします。途中で、より複雑な状況になった際に、電話での応対へ、シームレスに移行できるといったようなことを指します。もちろん、その際、これまでのやり取りをオペレーターに言い直す必要はありません。

お気づきのように、顧客との対話に一貫性を持たせるということは、データから始まります。

データをうまく分析するということは、顧客の声を聞くことにほかなりません。こうした顧客の声を聞くために、データが足りないだとか、機会が無い、といったことを心配する必要はありません。データは、サードパーティ(ウェブアプリ、店舗での取引、コールセンターなど)から取得することができます。また、既にある自社のデータベース(顧客、取引先、会社、契約など)と組み合わせて活用できる状態が理想です。

重要なのは、これらのデータを用いて、顧客を知ること、さらには、その顧客が、マーケティングキャンペーン、eコマース、コンタクトセンター、営業担当、販売店、配送、請求、支払い、といった各シーンにおいて感じるニーズを、価値創造に変えるためのコンテキストとして知ることです。

このためには、データを、単に分析して、ターゲティングに使うだけでは足りません。全社規模にわたる高品質なデータを、AIやMLアルゴリズムに学習させればさせるほど、顧客のニーズに沿うレコメンデーションをデータから得ることができます。うまく学習されたAIは、顧客のライフサイクル全体に対するジャーニーを、プロアクティブに形作ることができるでしょう。すなわち、パーソナライズされていて、ちょうど良いタイミングに、最適な割引や商品のオファーが出せる、といった、顧客に便益のある、あらゆる予測ができるようになるはずです。

一貫性とは、顧客体験が、従業員の体験と一致することでもあります。2023年は、従業員の体験に対する投資を一新する1年になるでしょう。すなわち、CRMやオペレーターが接するツールに、AIが組み込まれ、人間と機械がコラボレーションするようになるということです。例えば、ターゲット・マーケティングにおいては、顧客が望んでいるものを正確に突き止める、という新たなイノベーションが起こるでしょう。顧客のニーズを予測するために用いられる従業員向けのツールは、従業員ごとの役割やコミュニケーションの好みに応じて、パーソナライズされたものへと変化していくでしょう。
 

顧客に多様な選択肢を与えながら、ビジネスの利益を生み出す

既存のビジネスプロセスや、顧客とのやり取りを、単にデジタイズ(※訳注 デジタイズは、既存のプロセスで生まれる紙書類等が単に電子化されることを指し、デジタライズと区別しています)するだけでは、2023年やその先における競争には不十分です。顧客体験を改善したその先には、ビジネスとして利益を確保するために、既存の製品やサービスを、新たな体験として提供するよう、事業そのものを変化させることになります。顧客と企業双方にとって、多くの利点を生み出す、XaaS(X-as-a-service)型のビジネスが、今後多く見られるようになるでしょう。

しかしながら、こうしたXaaS型ビジネスは、財務、サプライチェーン、人事といったシステムやプロセスとの統合が強く求められます。すわなち、「全社レベルでデータやプロセスと統合された」真のCX施策のみが、こうしたビジネスを提供することができるのです。

サブスクリプション型のビジネスモデルへの変革には多くの利点がある一方で、文化的・技術的・財政的な混乱がつきものであるため、XaaS型ビジネスは簡単なものではありません。サブスクリプション型のビジネスモデルへ移行しようとしている企業の半分以上が、文化やオペレーションの面での課題に直面していると言われています。

市場進出(Go-to-market)および営業戦略は、顧客との長期に渡る関係の構築や、顧客自身の成功、それに伴う契約更新の重要性を軸にしたものである必要があります。財務システムは、定期購入モデルと、リアルタイムかつ柔軟性の高い支払い体系に対応している必要があります。このように、顧客のライフサイクル全体に対応していくには、企業内部システムとプロセスの刷新が必要になります。すなわち、マーケティングには顧客データの履歴を、営業とカスタマーサービスにはサービスの利用・契約・請求状況を、各販売接点には正確な価格と在庫状況を、そして、財務には顧客生涯価値(LTV)や実績データを、それぞれ提供できるようにする必要があります。
 

リスクを低減し、コストをコントロールする

2023年は、マクロ経済への逆風に関するニュースがよく見られます。同時に、2023年は、CXテクノロジーを再評価する年でもあります。ここ10年ほどの間で、私達は、あらゆる領域のCXテクノロジーを選択できるようになった一方、CXアプリケーションの数は増え続け、管理することが難しくなってきています。

機能は充実しているが、それを使いこなせず、結果的に期待を満たすことができない、といった負の側面に、企業は直面しています。IT部門は、うまくシステム連携されておらず、各部門の中に利用が限定されていて、その他のエコシステムからは切り離された、個別最適なアプリケーションを大量に管理しなければなりません。すなわち、IT部門は、CXシステム間をつなぐ最適プロセスを検討しつつ、個別のシステムの運用も任されているのです。

企業は、IT部門をこれまでと同じ方法(すなわち、全てのアプリケーション、運用、インフラを管理する方法)で維持することはできなくなっています。しかし、クラウドコンピューティングの成熟により、IT運用がモダナイズされ、顧客の声を聞く機会も増えつつあります。これにより、IT部門には大きなチャンスが訪れています。モダンなクラウドを使うことで、IT部門は、プライバシー、セキュリティ、暗号化、メンテナンス、アップグレードといったミッションクリティカルな運用管理のコストを下げることができます。その分、体験の差別化や、顧客への価値提供に注力できるようになるのです。

CXのプロフェッショナルとしての役割は、全社規模のデータとプロセスを、ビジネスを推進するために活用していく、いわば指揮者のようなものに変化しています。


この連載の次回(第3回目)は、OracleのCX製品の方向性について記載します。

Oracleは、優れた機能を、単一で統一されたモダンなエンタープライズ・アプリケーション・スイートとして提供することで、個別最適でバラバラに膨れ上がったCXプラットフォームへの過剰な期待を断ち切ろうとしています。Oracleは、個別最適でバラバラなCX SaaS製品が最適であると考えていませんし、それが将来にわたって顧客との関係を安全で強固なものにできるとも考えていません。

それでは、次回の更新を楽しみに頂ければ幸いです。