※本記事は、Alexander Stegall, Clint Kaiser, Chad S. WhiteによるAI-Generated Text: Generative AI Concerns & Opportunities for Marketersを翻訳したものです。
ChatGPTやDall-Eといった、マーケターの毎日の仕事に影響を及ぼす生成AIが、急速に世の中に広がってきています。今やこの変化は、疑いようがありません。それでは、企業がこの変化に追従するには、どうすれば良いのでしょうか?
生成AIによる変化に、可能な限りスムーズに追従できるよう、長期的には楽観的な見方を持ちつつ、短期的には注意深く現実的なアプローチを取ることをおすすめします。生成AIができること・できないことを見極め、どのように機能するか、深く理解することから始めましょう。
特性を深く理解することで、AIによる間違いや顧客体験の低下を防ぎながら、ビジネスを成長させるために、生成AIを活用することができるようになるでしょう。
画像やソースコード、テキスト等、アウトプットするものによって、生成AIの課題やユースケースが異なるため、本連載では、それぞれの記事でこれらを取り扱います。
第1回のこの記事では、テキストに焦点を当てます。

生成AIがテキストを作り出す方法
ChatGPTやBardといった生成AIエンジンは、一度に 1 単語ずつ文章を構築します。こうした大規模言語モデル(LLM: Large Language Model)は、膨大な量のウェブサイト、記事、書籍等を学習し、とある単語が次に出現する確率を計算しています。その中から、最も確率の高い単語を選択し、次の単語として移していく…この操作を、文章が出来上がるまで、繰り返していきます。
おおまかに、以上の手順によって、生成AIエンジンはテキストを作り出します。企業は、こうしたツールに、様々なユースケースで順応していく必要があります。例えば、以下のようなことに、対応できるでしょう。
- 企業が持つお作法を取り込んだり、情報のソースを好ましいものにしたりするために、企業が保有するコンテンツで生成AIを学習させる。
- 生成されたテキストが、ブランドイメージに沿い、読み手に合わせたものになるよう、書式(記事のタイトルや見出しに用いる大文字/小文字の使い分け等)や、トーン(NGワード等)、読みやすさに関するルールを策定する。
マーケターにとって、このような対策や追加の学習を施すことは、後述するリスクを最小化させながら、最大限の価値を引き出す鍵になります。
生成AIの4つの活用類型
生成AIに関する話題の多くは、ゼロから何か新しいものを作り出すことに終始しています。しかしながら、それは生成AIによるテキスト活用における類型の1つに過ぎません。
1. プロンプトによるテキスト作成
プロンプトを用いて、ゼロからテキストを作成するクラシックな方法です。
2. 対話型によるテキスト作成
テキスト作成プロセスを、1回のプロンプトではなく、いくつかのステップにブレイクダウンする方法で、人間のライターが行う方法に近いものです。この方法は、SNSへの投稿のような短いテキストではなく、記事等の構造化された文章を作成するのに適しています。例えば、とあるトピックに関するブログ投稿を作成するためのプロンプトは、いきなり本文の作成に入る前に、ブログのタイトルや見出しの作成を促すことになるでしょう。
3. リライト
プロンプトを起点にするというよりも、 文章のトーンの変更や、要約を作成するといった、何か修正を施したいコンテンツを生成AIに提供する方法です。
4. インラインでの提案
スペルや文法チェックを行うツールのように、生成AIが、文章の作成と同時に言葉を提案する方法です。
これらの類型は、後述する生成AIの弱みについて議論する上で、重要になります。
生成AIの弱みと注意事項
生成AIを用いてテキストを作成するにあたり、以下に示す弱みを理解することが重要です。
1. 不正確なことや偏見の伴うことを自信たっぷりに述べてしまう
生成AIは、その回答の速さや多彩さで人々を魅了する一方で、不正確な内容が伴うことで、がっかりさせることがあります。
例えば、雑誌Men’s Journalは、低テストステロンに関する誤った内容の記事を掲載しました。CNETは、利息計算や住宅ローン金利に関する誤った内容の記事を掲載したほか、その記事がAIによって生成されたことをあまり明らかにしていませんでした。さらに、これまでに最も大きな代償を払った例の1つとして、Googleは、提供する生成AIエンジンBardに関する、誤った内容の広告を掲載したことで、時価総額1,000億ドルを失いました。
これらの事例には、2つの問題があります。第1に、生成AIエンジンが、主にインターネット上の、不正確であったり嘘を含んだりするコンテンツによって学習されているという問題です。第2に、生成AIエンジンは、自身が作り出したものの真偽を判断することができないという問題です。生成AIエンジンは、次に出現させる単語が、文法的に正しく、確率的に出現しやすいかどうか判断しているにすぎないのです。すなわち、生成AIは、「それらしい」と人々に思わせるように動作するのです。生成AIが、このような「ハルシネーション(もっともらしいウソ)」を起こしやすいのは、これら2つの問題に起因しています。
同様の理由により、生成AIによるテキストは、人種、民族、文化等の偏見を生み出してしまう可能性があります。
こうした弱みに対処するため、AIが生成したテキストに対して、日付や統計データ、人・場所・組織・製品等に関する情報等についてのファクトチェックを行うようにしましょう。
2. 盗用や著作権侵害のおそれがある
生成AIは、既存のコンテンツを引用するため、盗用をしてしまう可能性があります。例えば、CNETのAIが生成した記事で盗用が発覚しました。
こうした弱みに対処するため、盗用のリスクは、インターネットや公開されたデータセットを引用する際に起こりやすいことを理解しましょう。リスクを低減するためには、企業自身が作成した大量のコンテンツをAIに学習させること、さらには、文章のトーンを変える等、企業が作成したコンテンツをリライトするようAIに指示することが有効です。法的なリスクは、企業が作成し、かつ、外部公開されているコンテンツのみを、AIが利用できるよう制限することで最小化できるでしょう。
もちろん、こうしたリスクは、生成AIが作成したコンテンツを、人間がリライトすることでも低減できます。
これとは別に、生成AIエンジンに、資産や取引上の機密情報を、サムスンの従業員が行ったように、学習させることは避けるべきでしょう。
3. 企業ブランドに関係のない、一般的な回答をしてしまう
ChatGPTやその他の大規模言語モデルは、主にインターネット上のコンテンツで学習されているため、回答がごく一般的なものに感じられます(著名人に似せた回答をさせることも可能ではありますが、盗用や著作権侵害等の法的リスクが高まります)。
こうした弱みに対処するため、企業自身が作成した大量のコンテンツを生成AIエンジンに学習させ、回答が企業ブランドに沿ったものになるようにしましょう。Writer等のテキスト作成プラットフォームでは、ブランドに関するスタイルガイドを作成することができ、例えば読みやすさのレベルや、見出しや小見出しのスタイル(コンマの位置等)を設定することができます。
4. 最新情報に追いついていない
大規模言語モデルの学習は、大量の情報を取り扱うため、多くの時間を要します。一度学習されると、その後の更新頻度はそう高くはありません。そのため、生成AIは、今シーズンのスポーツに関する情報や、オスカー受賞作品といった最新情報を回答することは、一般的にはありません。例えば、ChatGPT 3は、2021年以降のニュースには対応していません。
しかしながら、先述したように、生成AIは、タイムリーな情報でないことを認めなかったり、間違いや古くなった情報を回答したりする可能性があります。
こうした弱みに対処するため、生成AIに対して、ブログ記事用の検索トレンドやキーワードといった、最新情報を尋ねることは避けましょう。
5. 新しい領域に関する知見に乏しい
1つ前の弱みに関連して、生成AIは、引用可能なコンテンツが十分に揃っていないトピックに対して弱く、そのトピックについての記述が全くない場合はその弱みが顕著になります。
つまり、生成AIは、何も無いところからアイデアを生み出すことはできない、模倣の機械なのです。
こうした弱みに対処するため、生成AIの利用を、これまでよく議論されてきたトピックに絞ったり、追加のコンテンツを生成AIに提供することで修正できる状態にしたりしましょう。それでもなお、生成AIに対して、高い専門性を期待するのは避けるべきです。むしろ、そうでない可能性があることを念頭に置きましょう。
6. ブランドイメージを傷つけることがある
ここ20年ほどにわたって、企業は自らのオリジナリティを追い求め、努力を重ねてきました。B2B企業は、従来のメディアに匹敵するようなオウンドメディアを構築しています。また、B2C企業は、インフルエンサー・マーケティングや、ユーザー生成コンテンツ(UGC)、消費者による投票やアンケート、従業員の声を、数あるマーケティング手法の中でも重視してきました。
こうしたトレンドに逆行すると、消費者からの信頼や企業のイメージは傷つけられる可能性があります。特に、生成AIの利用が原因であると明らかになった場合に、影響は大きくなるでしょう。Monmouth Universityの調査によると、AIによるメリットがデメリットを上回ると考えるアメリカ人は9%のみにとどまり、多くがAIに対して懐疑的です。こうしたネガティブな考え方は、今後労働を置き換えることになるであろうAIに対する反発に繋がっています。
大規模なコンテンツマーケティング施策を運営するB2Bマーケターにとって、このリスクは特に大きなものになるでしょう。また、報道機関、学術基幹、業界団体、その他権威の伴う情報源が、AIが生成したテキストを意図を持って引用することは決してないでしょう。同様に、AIは、カンファレンスで講演したり、記事を執筆したり、集会に参加するといったメディア露出の機会を得ることはないでしょう。
こうした弱みに対処するため、これまで人間が執筆者として掲載されたり、講演したりするようなコンテンツ(ウェビナー、ポッドキャスト、ニュース番組)に対するAIの役割は、補助的なものに留めましょう。
7. 必ずしも成果が上がる訳では無い
マーケターの中には、生成AIが作り出したテキストが、人間よりも優れていると思い込んでいる人もいるかもしれません。しかし、それが実現するのはまだ遠い先のようです。
というのも、生成AIは、対象となるコンテンツが、過去の時点でどう機能したかを学習していないからです。つまり、生成AIによる提案は、読み手の関心や好みを理解したものではないということを意味します。また、生成AIは、企業自身についてもよく理解していないでしょう。
生成AIは、PhraseeやPersadoといった長年に渡って使われてきたコピーラインティング作成ツールとは真逆の存在と言えるでしょう。これらの実績あるツールは、企業のキャンペーンに対するフィードバックを継続的に取り入れており、読み手の好みに合わせた言葉を選び、成果を上げることに注力しています。
とはいえ、こうしたツールを長年使用してきた人の見方は様々です。コピーライティングの生産性が上がったとしても、その後の購買プロセスに対してどこまで有益だったか、計測できていないことが多いからです。つまり、ライセンス料に見合ったリターンが得られていないとされるのです。このようなツールが大きなリターンを生み出していないとするならば、生成AIを導入することで得られる成果(主に時間の節約になると想定されます)に対しても懐疑的になることは割けられないでしょう。
こうした弱みに対処するため、マーケターが持つ経験や顧客に関する知識を尊重し、最も効果的なコピーラインティングとなるよう、A/Bテストを実施しましょう。
8. マーケティングチャネルごとの細かな違いを理解していない
件名等のコピーラインティングを作成することに特化したツールでさえも、その後の購買プロセスの改善に苦労している中、汎用的な生成AIが、複雑なマーケティング(とりわけ、Eメールマーケティング)の要点を理解していないのも無理はありません。
例えば、生成AIは、B2Cのプロモーションメールと、ビジネスシーンでやり取りされるメールの違いを理解していないでしょう。また、件名の最初の方にキーワードを配置することの必要性や、件名と本文の内容を揃えて、メールが開封されやすいようにすることの必要性を理解していないでしょう。
こうした弱みに対処するため、マーケターは、生成AIへのプロンプトを工夫するだけではなく、生成AI自身がそのチャネルに関する知識を学習していて、効果が出る最適な状態であることを確認するようにしましょう。
マーケティングにおける生成AIのベストなユースケース
こうした弱みを踏まえ、生成AIが作り出したテキストを、企業が賢く活用するにはどうしたら良いでしょうか?以下に、いくつかの例を示します。
ブレインストーミング
生成AIは、まっさらな状態を打破するのに役立ちます。例えば、次のようなプロンプトを投げかけてみましょう。
- 「弊社はガーデニング用品を販売しています。この春、庭の芝生や景観を良くするために、人々が行いそうなことを20個挙げてください」
- 「フォーマルな靴を女性が履きたいと思えるシーンを15個挙げてください」
- 「個人事業主がWebサイトを立ち上げる際に陥りがちな10個の間違いは?」
- 「私は託児所を営んでいます。子どもを託児所に預けないことに対して、親が抱く反対意見を10個挙げてください」
得られた回答に対しては、次のことを実施しましょう。
- 読み手と企業自身に関する知識を踏まえ、明らかに関係の無い記載を削除する。
- 過去に実施した施策と重複するものが無いか確認し、存在する場合は、どんな成果を上げたか確認する。
- 消費者による投票やアンケート等を実施することを通じて、アイデアの優先順位付けを行い、企業と顧客に関連性の高い施策に絞り込む。
- 施策のA/Bテストを行い、どの顧客セグメントに最も響くか比較する。
既存コンテンツの要約と他チャネルへの展開
既にコンテンツがある場合は、生成AIを、文章の要約に使ったり、他のチャネル向けに文言を調整したりすることに使いましょう。例えば、既存のブログ記事から、メールマガジン向けの見出しを作成するほか、ソーシャルメディア向けの投稿を作成する、等です。
ブレインストーミングと同様に、複数バージョンの作成を、生成AIに依頼すると効果的です。
コピーライティング
読み手が置かれた文脈(業界/専門領域/役職/ニーズ等)に応じて、コンテンツを作成するのに、生成AIを使うと良いでしょう。
例えば、とある会計ソフトに関するコピーライティングを、事業規模(中小企業向け、大企業向け)や、業界(小売、サービス業、飲食)に応じて修正することが挙げられます。また、専門用語を避け、読みやすい文章に変更することも、生成AIによって可能になるでしょう。
これら全てのユースケースにおいて、生成 AI はテキスト作成プロセス全体の一部の役割を果たしているだけであり、すべてを担当する訳ではありません。生成AIの現状を踏まえると、今日においてはこれが合理的・効果的な使い方と言えるでしょう。
また、こうした生成AIの使い方によって、テキスト作成プロセスから得られる、組織としての思考やアイデアが無くなってしまうこともないでしょう。 ご存知のとおり、テキスト作成は、アイデアをすべて思いついた後に行うものではありません。テキスト作成は、何かを深く考え始めるために行うものであり、文章の構造や、詳細にあたる要素等を、じっくり考える必要があります。 生成 AI に依存しすぎると、テキスト作成プロセスとともに、思考プロセスも削がれてしまう可能性があります。
生成AIによるテキスト作成の未来
上記のように、様々な懸念点はあるものの、長期的には生成AIに対して楽観的な見方を我々は持っています。現在は過渡期と言えるでしょう。
数年後には、多くの投資がなされることで、大規模言語モデル(LLM)はより進化し、正確になり、リスクも減るでしょうし、企業もマーケティング業務に生成AIを様々な方法で使うようになるでしょう。リーダー企業によって市場のプレイヤーも統合が進み、これまで行ってきた投資を回収し、利益を生み出す価格設定モデルも成熟していくでしょう。
それまでの間は、こうした新しいテクノロジーを念頭に置きつつ、日々の仕事においてどう順応していくか、検討を開始しましょう。チェンジ・マネジメントは簡単ではないことを理解し、一歩ずつ進めていくことが重要です。一方で、ここ50年のスパンで見ると、現代の働き方は、何度も大きな変化を迎え、その度に新たな役割やチャンスが訪れたことを、意識しておきましょう。今こそ、顧客体験をより良いものにするというゴールに向かって、仕事(ワークフローやプロセス)を変化させていくべき時なのです。
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