オラクルには、社内のインクルージョンを推進するため、いくつかの社員コミュニティ(Employee Resource Group: ERG)が存在します。社員とその家族が障害をかかえたり、病気にかかったりしても、安心して働き続けることができる職場づくりを目指すOracle Diverse Ability Network (以下、ODAN)もそのうちのひとつです。みなが働きやすい環境にするためには、少数の専門家よりも多くの理解者がいるほうが重要だという考えの下、様々な勉強会を開き、理解者を増やす活動を行っています。

各部門にODANの活動を広げるODAN Champと呼ばれる人たちがいます。彼らが現場のニーズを拾っていくと、短い時間で気軽に参加できる体験会があるといいという声が多く寄せられました。そこでODANのメンバーが考えたのが、ODAN独自ルールによるボッチャ体験会です。ボッチャのボールを使い、ジャックボールの近くを目指すところは通常のボッチャと一緒ですが、いろいろな制限を設けたカードを作成し、エンドごとにそれぞれがカードを引くというルールを設けました。カードには視覚、聴覚、肢体などさまざまな制限が書かれており、その条件に合わせた状態でボールを投げます。

制限カードを作成するにあたり、ODANメンバーはそれぞれの障害に対して情報を調べたりインタビューをしたりして、理解を深めながら制限を設けるグッズを手作りしました。たとえば視覚障害ひとつをとっても、視野が欠ける、視野が狭くなる、視力を失う、ものがぼやけて見える、色の判別が難しいなどさまざまな症状があることを学び、それを体験するためのメガネを自作しました。制限グッズを作る過程で、障害の内容によってはボールを投げる際に手伝いがいる場合といらない場合があることがわかりました。そこで、独自ルールの中に、ボールを投げる前にチームメイトから「なにかお手伝いが必要ですか?」「なにか手伝えることはありますか?」などと問いかけ、当人が必要に応じて手伝う内容を答える、また必要ないときには必要がないことを伝えるという項目を設けました。

ゲームをする中で、何度も「手伝いましょうか?」と問いかけることで、困っている人を見かけたら声を掛けるということへのハードルが下がります。また、声をかけたときに断られたとしても、それが当たり前のことだと認識します。体験した人から、このゲームを通じて、街でも職場でも気軽に助けを申し出ることができるようになったというコメントをもらいました。

ボッチャ
ODANメンバーが考案した独自ルールのボッチャ体験会。これまで複数回にわたり開催している

ODANでは、ゲーム終了後に参加者同士で気がついたことを振り返る時間を必ず設けています。先日、昼食時に実施した際、参加者の一人に気がついたことを聞いたところ、「とにかく『めまい』のカードが辛かった。あのカードはもう引きたくない」という回答がありました。他の参加者から「でも、めまいが起こる病気っていくつかあり得るよね」というコメントがあり、たしかに職場にめまいで困っている同僚がいる可能性もあるという話になりました。辛かったという社員に、どうしたら辛さが軽減されたか質問したところ、「あのときはとにかく座りたかった」という回答。「しばらく座っていたら、普通にボールを投げられたと思うか」という質問には「めまいが収まるまで待ってもらったら、だいぶ楽に投げられたと思う。もしくは座ったままでよかったら、それも助かった」とのこと。これを機に、ルールはなんのためにあるのか、みんながボールを投げて競うのであれば、椅子に座って投げることを認めてもいいのではないかと議論が広がりました。そして自然に、普段の業務も同様で、めまいだけではなく、身体の不調がある同僚がいる際には、どうしたら問題なく業務が進められるのかを聞いた上で、必要な支援をすることが大切だという気づきにつながりました

この体験から得られたのは、まずは対話をしてみることの重要性です。対話しながら、慣例やルールなどを見直して、目的を達成するために変更可能な手立てを探ることで、より多くの人が成果に貢献できることを学びました。障害者差別解消法が改正され、この4月からすべての事業者に合理的配慮の提供が義務化されました。義務化というと強い言葉のように感じますが、私たちに必要なのは、丁寧に対話を重ね、必要な配慮を提供するということではないでしょうか。それが、この活動を通じて学んだことです。