このシリーズでは臨床試験におけるeClinicalプラットフォームに焦点を当てます。
私は前職で製薬メーカーの臨床開発部門に所属し、EDCをはじめとする臨床試験のデジタル化の検討を行ってきました。これまでの経験を活かしてeClinicalプラットフォームとはそもそも何なのか、これまでのシステムとeClinicalプラットフォームは何が違うのか、またeClinicalプラットフォームを構成する各要素(システム)やeClinical プラットフォームを検討する際のポイントや課題などを整理して紹介していきたいと思います。
臨床開発に携わる人々にeClinical プラットフォームが持つ価値を理解いただき、eClinical プラットフォームにより今後の臨床試験のデジタル化・自動化を加速させ、より一層効率的な新薬の上市・患者への新薬提供の実現にお役立ていただければ幸いです。
今回は第5回:EDC(Electronic Data Capture)に今求められるもの~アジャイル開発をご紹介します。
Blogシリーズ:徹底解説!eClinical プラットフォーム
第1回:eClinical プラットフォームとは?~なぜ今求められているのか?
第2回:SSU(Study Start Up)とは?~試験の立上げを加速化させる
第3回:CTMS(Clinical Trial Management System)の最新トレンド
第4回:RTSM(Randomization & Trial Supply Management System)の最新動向
第5回:EDC(Electronic Data Capture)に今求められるもの~アジャイル開発
第6回:Clinical Data Warehouseとは?~臨床試験データの一元管理
EDCとは?
EDC(Electronic Data Capture)は症例報告書に記載される被験者データを施設から電子的に収集して管理するためのシステムです。EDCは、入力データのバリデーション、クリーニング、コーディングなど、包括的なデータ管理機能を含み、収集されたデータの品質と信頼性を保証することが可能となります。
紙の症例報告書と比較したメリットとしては
・入力したデータをリアルタイムでモニタリングすることができる
・入力したデータをWeb上で自動的にチェックすることができる
・判読不明文字の減少
などがあげられます。
25年前、世界で初めてEDCを世に送り出したのはオラクルですが、今では数多くのベンダーがEDCを提供し、世界中の臨床試験でEDCが使われています。今回、eClinical Platformという観点でどういったEDCを選定すべきか、最近注目されているアジャイル開発について紹介します。
EDCのアジャイル開発
最近、EDCの構築手法として、アジャイル開発が主流になっています。従来型のウォーターフォール開発は事前に仕様を明確にしてから構築作業を進めるのに対して、アジャイル開発は短期間で開発・テストを繰り返しながら構築作業を進める手法です。 アジャイル開発の特徴は、事前に明確な仕様を作成せずに開発を進めるため開発途中であっても柔軟に仕様を変更・修正ができるという点にあります。まず初めに、一般的にアジャイル開発を採用するとどんなメリット・デメリットがあるのか整理しました。
表. アジャイル開発のメリットとデメリット
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アジャイル開発 |
ウォーターフォール開発 |
| メリット |
・事前に明確な仕様を作成せずに開発を進めるため、開発途中であっても柔軟に仕様を変更・修正ができる ・最終的に早くgo-liveすることができる |
・事前に明確な仕様を作成して開発を進めるため、細かい部分を事前に開発者に伝えることができる ・事前に明確な仕様を作成して開発を進めるため(仕様に間違いがない限り)原則として手戻りは発生しない |
| デメリット |
・事前に明確な仕様を作成せずに開発を進めるため、先に開発を進めておいた部分に修正が発生すると手戻りになる ・事前に明確な仕様を作成せずに開発を進めるため、細かい部分が開発者に伝わらず手戻りが発生することがある |
・細かい部分を事前に開発者に伝えることができるものの、スポンサーの全ての意図が開発者に伝わるわけではない。
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では、EDCでアジャイル開発をする際にどういった点に留意すればいいのか考えてみました。
標準の活用:EDCでアジャイル開発を行うにはスポンサーと開発者がある一定の前提条件を共有していることが重要です。例えばCRFデザインは「CDISCのCDASHモデルを採用する」など外部の標準を参照することによってスポンサーと開発者が一定の前提条件を共有し、出来上がってくる成果物の品質のブレを小さくすることが可能になります。
開発者フレンドリーな構築ユーザーインターフェース:アジャイル開発の場合、開発途中で何かしらの変更があることが前提になっています。開発者フレンドリーなユーザーインターフェース、修正しやすいユーザーインターフェースであるとよりアジャイル開発のメリットが生かされることになります。
プログラミングレス開発:ソフトウェア開発でプログラミング作業は大きな時間を占めます。事前にバリデーションされた小さなプログラムモジュールを活用することでよりアジャイル開発のメリットが生かされ、構築期間も短縮することになります。
カンファレンスルームパイロット:アジャイル開発では事前に明確な仕様を作成せずに開発を進めるため、どうしても細かいスポンサーの意図が開発者に伝わらないことがあります。カンファレンスルームパイロット(Conference Room Pilot、できた部分をみて随時フィードバックをもらう)を活用してスポンサーからのフィードバックを受けるプロセスを頻回に設けることで要件や期待値を正確に理解し手戻りを最小化しつつ適切な方向性を維持することが可能になります。
仕様書の出力:アジャイル開発では事前に仕様書を作成しませんが、仕様書を作成しなくてはならないことには変わりません。いかに構築した内容を正確に仕様書に記述できるかは重要なポイントです。最近のアジャイル開発対応のEDCは、構築した全ての内容を仕様書としてPDFで出力できるものが主流になっています。
アジャイル開発を採用するとこれまで3~4ヵ月間かかっていたEDCの構築が2か月で構築可能になります。EDCの構築期間は試験のクリティカルパスにもなり得る非常に重要なプロセスであり、申請までのタイムラインに影響を及ぼします。eClinical Platformを検討する点でアジャイル開発を採用しているかという点を考慮にいれてはいかがでしょうか。
<ご参考>
Clinical One Data Collection:Health Sciences Clinical One Data Collection | オラクル | Oracle 日本
RTSMとEDCが一体化した統合型システム:Clinical One | オラクル | Oracle 日本
