このシリーズでは臨床試験におけるeClinicalプラットフォームに焦点を当てます。
私は前職で製薬メーカーの臨床開発部門に所属し、EDCをはじめとする臨床試験のデジタル化の検討を行ってきました。これまでの経験を活かしてeClinicalプラットフォームとはそもそも何なのか、これまでのシステムとeClinicalプラットフォームは何が違うのか、またeClinicalプラットフォームを構成する各要素(システム)やeClinical プラットフォームを検討する際のポイントや課題などを整理して紹介していきたいと思います。
臨床開発に携わる人々にeClinical プラットフォームが持つ価値を理解いただき、eClinical プラットフォームにより今後の臨床試験のデジタル化・自動化を加速させ、より一層効率的な新薬の上市・患者への新薬提供の実現にお役立ていただければ幸いです。
今回は第3回:CTMS(Clinical Trial Management System)の最新トレンドをご紹介します。
Blogシリーズ:徹底解説!eClinical プラットフォーム
第1回:eClinical プラットフォームとは?~なぜ今求められているのか?
第2回:SSU(Study Start Up)とは?~試験の立上げを加速化させる
第3回:CTMS(Clinical Trial Management System)の最新トレンド
第4回:RTSM(Randomization & Trial Supply Management System)の最新動向
第5回:EDC(Electronic Data Capture)に今求められるもの~アジャイル開発
第6回:Clinical Data Warehouseとは?~臨床試験データの一元管理
臨床試験の進捗管理における課題
かつて臨床試験の進捗管理はエクセルなどの計算ソフトで行われていました。そのため、メールで得られた情報を手作業でエクセルシートに転記、エクセルファイルに記載されている情報を他のエクセルファイルへの転記する、目視でのアラートなどかなりアナログな作業でした。また進捗管理のエクセルシートのフォーマットもプロジェクトごとにバラバラでプロジェクト毎に入力項目、体裁が異なり、計算式やマクロなどが含まれている場合、誰か詳しい人がメンテナンスし続ける必要がありました。エクセルシートに転記が終わるまでは全体像をつかむことができないためリアルタイムでの進捗状況の把握、ボトルネックの特定、意思決定を行うことも困難でした。
グローバルCTMSとは?
CTMS(Clinical Trial Management System):CTMSは、試験・国・施設・症例の情報を管理し、また、試験中に発生する様々なアクティビティを予定日と共に管理することで、試験の初期段階から最終段階における進捗状況をリアルタイムに確認し、試験の迅速な推進をサポートする臨床試験管理システムです。グローバルCTMSは、各国の規制要件に基づくタスク、言語、通貨をサポートし、グローバル試験を行うために必要不可欠なシステムです。
グローバルCTMSのメリット
グローバルCTMSの大きな特徴としては以下が挙げられます。
- 臨床試験のマイルストーンの予定と実績の管理(進捗管理)を行うことができる
- 臨床試験で次に何を行わなくてはならないかアクティビティの管理ができる
- 症例モニタリングの情報を管理することができる
- どのメンバーがどの試験でどんな役割を担当しているかを把握することができる
- 施設や医師のマスタを様々なシステムで活用することができる
- レポーティングツールを活用してレポートの出力、パフォーマンスの評価、リスクベースモニタリングを行うことができる
日本のCTMSとの違い
日本にも以前からCTMSは存在していますが、グローバルCTMSとは若干コンセプトが異なっていると考えています。私の知る限り、ほとんどのグローバルCTMSは顧客との商談の進捗状況を管理する営業管理システム(CRM: Customer Relationship Management)を元に開発されています。臨床開発における営業担当はCRAであり、顧客は治験実施医療機関であり、商談のマイルストーン管理・アクティビティ管理はそのまま臨床試験にもあてはまります。一方、日本のローカルCTMSはモニタリング報告書の作成を中心に臨床試験に必要な様々な情報を管理しているため、「日報管理」のような位置づけになるかと思います。グローバルCTMSでは、やるべきことをアクティビティとしてリスト化し、アクティビティを立ち上げた日を基準にDue date(期限)が設定され、やるべき作業が期限内にどの程度完了しているのかを進捗率として管理しています。日本のローカルCTMSは、やったことを記録する日報管理を基本機能とし、品質管理的な観点では、やるべきことをこなさない限り次のステップに進ませない、いわゆる出口管理が中心となっています。レポート機能に関してはグローバルCTMSがレポーティングツールを備え可視化ができるのに対して、ローカルCTMSは標準では単票形式のものを提供していることが多いようです。グローバルCTMSと日本のCTMSの違いを整理すると以下になります。
表1.グローバルCTMSと日本のCTMSの違い
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グローバルCTMS |
日本のCTMS |
Note |
| システムのコンセプト |
進捗・スケジュール管理 |
モニタリング報告書管理 |
グローバルCTMSは、やるべきことをリストアップした上でデータを記録する ローカルCTMSは、やったことのみを記録する |
| 管理のコンセプト |
やるべきタスク期限までにこなしたか |
タスクをこなさない限り次のステップに進ませない |
グローバルCTMSは、各タスクに期限がついている ローカルCTMSは、各タスクに期限はなくタスクをこなさない限り次のステップに進ませない |
| レポート機能
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表、グラフ、リスティング |
リスティング(単票形式) |
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最近のCTMSの動向
これまで日本の製薬メーカーは国内用の試験のためにローカルCTMSを使い、海外での試験のためには(主にグローバルCROの保有する)グローバルCTMSを利用するケースが多かったと思います。しかし、委託したCROからのCTMSへのアクセス権付与が困難で、製薬メーカーは直接CTMSにアクセスすることができず、進捗報告はレポートや議事録に頼らざるを得ずタイムリーに情報を得られない、グローバルCROが製薬メーカーにCTMSへのアクセス権を付与し製薬メーカーが直接CTMSにアクセスができる場合であっても、CRO毎にCTMSが異なるため複数の試験の情報を同じフォーマットで比較することができず、製薬メーカー社内でマネジメント層への報告のためにエクセル作業を行う工数が増えるなど人的リソースの追加だけでは解決しきれない課題が多数発生しています。近年のグローバル試験の増加傾向によってスポンサーでのこれらの負担は一層顕著になっています。
その問題を解決するため、最近では自社でグローバルCTMSを保有するケースが増えています。グローバルCTMSを自社で導入することにより、モニタリング業務をCROに委託した場合であってもCROの報告待ちがなく各国の進捗状況を自ら確認することができ、どこの国で問題が起きていているかをリアルタイムで確認できるようになる(CROのOversight向上、Regionでの情報のサイロ化防止)とともに、同じフォーマット(報告様式)で情報の可視化ができ、迅速な意思決定を行うことが可能になります。
これから求められるCTMS
かつては日本の要求事項が非常に複雑なためグローバルCTMSに日本の要求事項を実装するのは非常な困難と言われていましたが、最近ではグローバルで臨床試験を一元管理したいというニーズから、多くの製薬メーカー・CROが日本の要求事項も含めたグローバルCTMSを導入・検討しています。
最近重要視されているのは、各スポンサーの要求事項に応じて設定(コンフィグレーション)で柔軟に対応できるフレキシブルさや、他の臨床開発システム(SSU、EDC、RTSM、eTMF、CROのCTMS等)と連携できるスケーラビリティ(拡張性)などCTMSそのものの機能からプラットフォームへと関心が移ってきています。これから求められるCTMSの要件について整理しました。
- グローバルシングルデータベース。海外でも使える、日本でも使えるCTMS
- 各国の規制要件に基づくタスク、各スポンサーからの要求事項に応じて設定(コンフィグレーション)で柔軟に対応できるフレキシブルさ
- 他のシステム(SSU、EDC、RTSM、eTMF、CROのCTMS等)と連携できるスケーラビリティ(拡張性)
オラクルのCTMS
オラクルのCTMSは、グローバルCTMSとして世界中の製薬メーカー、CROで利用されています。詳しくは以下をご覧ください。
Oracle Oracle Clinical Trial Management System (CTMS)
