遅ればせながら新年あけましておめでとうございます。

令和6年能登半島地震により被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。一刻も早い復旧と皆様の安全をお祈り申し上げます。

 

本年も本ブログで臨床開発に関する様々な情報を発信していきますので、どうぞよろしくお願いいたします。

2024年の始まりは、Cernerを買収しRWDを所有するITベンダであるオラクルとして、臨床試験におけるRWD(リアルワールドデータ)の活用に関する記事をご紹介します。


(本記事はOracle Life Sciences, Executive Director Digital Trials StrategyのDavid BlackmanによるMaking the Most of Real-World Data in Clinical Trials – MedCity Newsを翻訳したものです。)
 

【臨床試験におけるリアルワールドデータの活用(Making the Most of Real-World Data in Clinical Trials – MedCity News)】

近年、臨床研究ではデータの爆発的に増加していますが、これは業界にとって望ましいことと捉えています。技術の進歩により、研究者が安全で匿名化されたデータソースにアクセスできるようになり、このデータの最適化は臨床試験の実施において、コストとスケジュールの両面で大きな可能性を秘めています。

 

実際の患者の経験から収集されたRWDを取り入れることは、多くの意味で、疾患の状態を根本的により良く理解するための重要な一歩です。バイオマーカー、電子カルテ(EHR)、ゲノムデータ、画像データ、検査データ、ソーシャルメディア、ウェアラブルなどのデータは、新薬治療の品質、有効性、安全性に関する新たな発見に寄与するリアルワールドデータ(RWD)の新たなデータソースとなり得ます。

 

例えば、ある患者を治療する際、臨床医は広範な医療システムの中で他の類似した患者の治療経過の変化や転帰を参考にすることができます。さらに、製薬会社はRWDを利用して追加の研究計画を立てたり、価値のある文書を作成したり、患者の治療オプションを決定したりすることができます。

 

しかし、どうRWDを整理すればある疾患に対する薬剤の効果について既知の情報を裏付けるデータを見つけることができるでしょうか?さらに、これらのデータをどのように最適化すれば、薬剤と疾患に関する画期的な洞察や新しいパターンを示すことができるでしょうか?

 

ギャップを埋める

任意のデータセットを分析する上で重要なのは、データの出所とデータのギャップがどこにあるかを特定し理解することです。例えば、ヘルスネットワークからのデータは、保険会社のデータと異なる結果を示す可能性があります。なぜなら、それぞれのデータソースを示す集団が異なるからです。これらの違いはまた、各ソースが報告するデータの種類にも反映されます。例えば、病院は患者の体温、血圧、薬剤の投与などの患者の健康状態に関連する情報を収集する一方、保険会社は行われた検査や処方された薬の確認を行います。これらの違いを理解することは、研究者が独自の発見を予測し、より良いデータに基づく意思決定を行うのに役立ちます。

 

多くの場合、リアルワールドや実臨床からのデータ収集はバラバラでサイロ化されたデータセットとなります。これらの大きなデータセットは非常に扱いづらく、最新のデータにアクセスして分析するには非常に多くのリソースが多く必要となります。研究者には、スポンサーからの期待、データ管理技術の進歩、RWDから得られる価値を最大化できる高い分析能力を持つCROパートナーと協力しなければならないというプレッシャーが高まっています。

 

これらの課題に対処するため、多くの人々がデータの相互運用性を可能にする技術プラットフォームに注目をしています。つまり、データを収集し、統合し、一元化されたリポジトリに集約することで、総合的な視点でデータを解釈できるようにするプラットフォームです。新しいクラウドベースのプラットフォームのおかげで患者、医師、およびデータ管理担当者は基本的にリアルタイムでデータを共有することができます。

 

これらのプラットフォームでは、研究に参加する患者が自宅からリアルワールドデータを快適に収集・送信できます。例えば、患者は、固有の識別子を持つmHealthセンサーを身に着け、血圧や血糖値などのリアルワールドのデータを遠隔から継続的に収集すると同時にBluetooth経由で患者のモバイルデバイスに情報を送信することもできます。

 

そこからデータはクラウド上のリポジトリを経由して、対象のデータを電子データキャプチャ(EDC)システムに集約し、機械学習やAIを介した分析に備えます。データ解析はその後臨床試験のために収集された他の患者データと組み合わされ、メディカルレビューや生物統計家による有効性、安全性解析など下流のプロセスに進みます。

 

RWDの分析結果は、臨床試験のデザインの変更にも影響を与える可能性があります。例えば、メディカルアフェアーズの専門家が特定の治療アプローチに対する「ロングレスポンダー」を特定する方法や、営利団体が患者サービスプログラムの有効性を評価する方法などです。最終的に、これらのデータは新薬や新規治療法の承認申請のために提出されるエビデンスともなり得ます。

 

Keeping it “real”

最終的には、臨床医と患者は臨床試験の結果を自分たちの専門的および個人的な経験に関連付けることができなければなりません。臨床試験という高度に管理された環境から収集されたデータは、多くの患者やケアプロバイダーが経験する「現実の世界」を実際に描写していない可能性があります。その結果、さまざまな医療治療の効果と安全性に関する理解には重要な限界が生じます。

 

だからこそ、より広い集団からのRWDを活用することが重要なのです。より多様で包括的なデータセットを使用することで、臨床研究者は異なる患者集団内で疾患と治療がどのように振る舞うかについての理解を深め、それに応じて患者ケアを調整することができます。

 

例えば、現在、がん患者のうちわずか5%しか臨床試験に参加しておらず、その割合は非常に低く、途中脱落が多すぎると早期中止を余儀なくされる試験もあるほどです。RWDでは、EHRを使用して臨床試験に適格な患者を自動的に特定し、その情報を担当医に伝えることを可能にします。これはいつの日にか患者が定期的な診療の際に臨床試験への参加をケアのオプションとして選択できるようになることを意味します。また、遠隔診療と結びついた遠隔データ収集は、患者が頻繁にクリニックに来る必要がない、あるいはまったく来ないこともあることを意味します。これにより、患者が臨床試験の最も不便な部分としてしばしば挙げる「移動」を排除または大幅に削減できる可能性があります。

 

より広範かつ多様な個人と臨床状況を含む研究が、最終的に医薬品の使用や健康維持に関する意思決定に適用するためのより優れた科学的根拠につながることは間違いありません。リアルワールドデータの活用はそれ自体が現在の状況を大きく変える可能性があります。業界としては、それらが確実に実施され、医療提供者とスポンサーが臨床データとRWDの両方を利用して患者のケアに関して最良の決定を下せるように協力していかなければならないと考えています。