これまで7回にわたり、Digital ProtocolおよびDigital Data Flow(DDF)、そしてそのユースケースについて紹介してきました。

(第1回~第7回はこちらからご覧いただけます。)

本テーマについてお話しする中で、よくいただく質問があります。

今回はそれらの質問にQ&A形式でお答えします。


Q. なぜDigital Protocolに取り組む必要があるのでしょうか?

ICH M11は2025年11月にStep 4に到達し、FDAは2026年5月にGuidance for Industryを公表し、EMAでは2026年6月からICH M11がComing into effect となりました。

現時点ではどの規制当局においても義務化の具体的な時期は示されていませんが、今後、各規制当局が義務化の方向に進む可能性は極めて高いと考えられます。

従来の紙・PDFベースのプロトコール作成プロセスにDigital Protocol作成という業務が追加されると、単純に作業が増加します。さらに、プロトコール改訂が発生した場合は、紙・PDFベースのプロトコールとDigital Protocolの両方をメンテナンスして整合性を確保しなくてはなりません。

これを機に変化を前向きにとらえ臨床開発プロセス全体を「Digital Protocolプロトコールありき」で再設計することで、Digital Protocolを修正すればそこから生成される紙・PDFのプロトコールも自動的に修正されることとなり、単なる規制対応にとどまらず、プロセス全体の最適化することが可能になるでしょう。


Q. なぜグローバル製薬企業はDigital ProtocolやDigital Data Flowに取り組んでいるのでしょうか?

あるグローバル製薬企業のData Management責任者は次のように語っています。

  • 始めからDDFに注目していたわけではなかった。
  • 今より臨床試験を早く進めるにはどうすればいいか社内で議論を重ねる中で、DDFの可能性を認識し、さらに探求していくことを決めた。
  • 最終目標は当初から明確ではなかったものの、一歩一歩前進するごとに新たな課題が明らかになり、この反復的なプロセスを通して前進を続けている。

重要なのは、「DDFを導入すること」そのものではなく、臨床試験をいかに効率的に、より早く進めるかという本質的な課題に向き合うことです。その結果として、Digital ProtocolやDDFといったアプローチにたどり着くケースが多いということだと思います。

ぜひ一度、皆さんの組織においても「どうすれば今より臨床試験を早く、効率的に進められるか」という観点から議論してみてはいかがでしょうか。


Q. Digital Protocolの導入によってモニターの業務はどのように変わりますか?

Digital Protocolの導入によってモニター含め大きく業務プロセスが変わります。
全体的には以下のような変化が想定されます。

BeforeAfter
文書はMS Wordで作成プロトコールを含む臨床試験関連文書はシステム上で作成・管理
プロトコールから各種文書へ手作業でコピー&ペーストDigital Protocolから自動生成可能な部分は自動作成
プロトコール改訂時は影響箇所を手動で特定・反映改訂内容は関連文書へ自動反映
文書はPDFで配布文書はXMLやJSONなど構造化形式で共有

特に、臨床試験デザインを考えるStudy Manager、臨床試験プロトコールを編纂しているMedical Writerの作業は大きく変わることが想定されます。システム上で臨床試験プロトコールをデザインすることが前提になるでしょう。

こうした変化は既に他の業界ではおきていて、例えば、建築業界ではかつては建築士は紙で図面を描いていましたが、今ではCAD(Computer-Aided Design)でシステム上でデザインするのが一般的となっています。臨床開発の領域でもこういった変化が起こることが想定されます。

また、試験セットアップのスケジュールも大きく変わることになると思います。
これまでは、まずはプロトコール文書を作成して、それに従ってデータマネジメント部門やモニタリング部門などの各部門がプロトコール文書に基づき各種関連文書を作成していました。

今後、Digital Protocolが本格的に導入されると、最初のDigital protocolの作成に多くの労力・期間が割かれることになります。その代わり、一度Digital Protocolができると多くのステークホルダーがその情報を再利用できるようになり、修正もシステム上で行い、さらに変更があった場合にも変更点が自動で反映されるようになり、全体としてはプラスの影響が得られるでしょう。


Q. 日本はDigital Protocolのトレンドにどのように対応すべきでしょうか?

積極的に新しいテクノロジーを取り入れ、その活用範囲を広げていくことが重要です。同時に、バランス感覚も不可欠です。個別最適にとどまらず、全体最適を目指して、業務の捉え方そのものを変革することが求められます。

上の質問でも述べましたが、Digital Protocol/DDFの導入によって、試験セットアップのスケジュールは大きく変わることになると思います。Digital Protocolが本格的に導入されると、最初のDigital protocolの作成に多くの労力・期間が割かれることになります。その代わり、一度Digital Protocolができると、多くのステークホルダーがその情報を再利用できるようになります。修正もシステム上で行い、さらに変更があった場合にも変更点が自動で反映されるようになり、全体としてはプラスの影響が得られるでしょう。
最終成果を見据えながらプロセス全体を俯瞰し、最も効果の高い領域にリソースを集中する必要があるでしょう。


Q. AIが進化すれば、標準化は不要になるのではないでしょうか?

一部では正しい側面もありますが、結論として、標準化の重要性はむしろ高まります。

AIの進化によって、表現や形式が異なるデータを一定程度解釈できるようになりました。しかし、データソースが標準化されているほど、MLやLLMの精度・再現性は向上しやすくなります。

そのため、AIと標準は対立するものではなく、「車の両輪」の関係にあると考えています。
標準化が不十分な場合、データの解釈や整合性確認(レビュー・QC)が人手に依存し、結果として効率や品質のばらつきが生じます。

データ活用においては、いわゆる「5つのV」のバランスが重要です。

  • Volume(量)
  • Value(価値)
  • Variety(多様性)
  • Velocity(速度)
  • Veracity(正確性)

この観点から見ると、特にVeracity(正確性)とValue(価値)を担保する上で、標準化は不可欠です。

Digital Protocolの実現に必要なデータソースの質・量を考えると、現時点ではAIに依存する前に、まずデータの標準化を進めることが現実的かつ効果的なアプローチと言えるでしょう。



Q. Digital Data Flowを実装するには、何から始めるべきでしょうか?

まずはスモールスタートが有効です。
いきなり全体最適を目指すのではなく、限定的なスコープで実際に手を動かしながら検証することが重要です。
例えば以下のようなアプローチが考えられます。

  • 過去試験を対象にOpenStudy Builderのデモ環境を活用し、プロトコールをどこまで構造化できるかを検証する(無償)
  • 商用のDigital Protocolツールを用いて、プロトコールのデジタル化に着手する(有償)
  • OpenStudy BuilderからEDCへのパイロットテストを通じて、EDC構築の自動化レベルを確認する(有償)

MDR/SDRを活用してプロトコールを構造化するところから始めるのが現実的な第一歩ではないでしょうか。実際に手を動かしながら理解を深め、小さな成功体験を積み重ねていくことが、Digital Data Flow実現への最も確実なアプローチと言えるでしょう。


Q. 社内でどの部署がDDFをリードすべきでしょうか?

結論から言うと、特定の単一部署がリードすべきものではなく、Cross Functionalで推進すべき取り組みです。Digital Data Flow(DDF)は、プロトコール作成からデータ収集・分析・申請に至るまで、臨床試験全体のプロセスに関わるため、以下のような複数の部門が関与します。

  • Clinical Development(臨床開発)
  • Data Management
  • Biostatistics
  • Clinical Operations
  • IT / Digital / DX部門

そのため、いずれか1部門だけで推進しようとすると、部分最適に陥るリスクがあります。
実際のグローバル製薬企業の事例では、

  • Data ManagementやClinical Operationsが起点となるケース
  • あるいはDX/IT部門が全体戦略として主導するケース

など様々ですが、共通しているのは、全体最適を見据えた横断的な体制を構築している点です。
重要なのは「どの部署が主導するか」以上に、

  • 明確なビジョン(なぜ取り組むのか)
  • 経営層のコミットメント
  • 部門横断の連携体制

を確立することです。
そのうえで、自社の組織構造や成熟度に応じて、最も適した部門が旗振り役となり、段階的にスコープを拡大していくことが現実的なアプローチと言えるでしょう。


おわりに

全8回にわたり、Digital ProtocolとDigital Data Flow(DDF)の概要、ユースケース、導入に向けた考え方をご紹介してきました。

Digital ProtocolとDDFへの取り組みは、これからの臨床開発のあり方を考えるための第一歩です。本連載が、Digital ProtocolやDDFについて考え、組織内で議論を始め、未来に向けた一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。