前回は、グローバルCTMSの特徴について整理しました。グローバルCTMSを導入することで、複数の国・地域やCROを横断して、試験の進捗、マイルストーン、課題、リスクを一元的に管理しやすくなります。しかし、グローバルCTMSを導入するだけで、すべての情報が自動的に集約されるわけではありません。

臨床試験では、症例データはEDC、無作為化や治験薬の交付情報はRTSM、必須文書はTMF、施設立ち上げの詳細情報はStudy Start-Upシステムというように、業務ごとに異なるシステムが利用されています。

ICH E6(R3)では、臨床試験で使用するシステムやプロセスは目的に適合したものであり、データの完全性、追跡可能性、セキュリティを確保できるよう設計・運用することが求められています。また、ICH E8(R1)では、試験実施後の確認だけに依存するのではなく、プロトコルや業務プロセスの設計段階から品質を作り込むQuality by Designの考え方が示されています。システム間のデータ連携は、単なる入力作業の削減だけを目的とするものではありません。信頼できるデータを適切なタイミングで業務プロセスへ組み込み、問題を早期に検知して対応するという、Quality by Designを実務で支える仕組みの一つと考えることができます。

CTMSを「試験運用のハブ」として考える

CTMSを中心としたデータ連携を考えるときに重要なのは、すべてのデータをCTMSへ集めることではありません。EDCは症例データ、RTSMは無作為化や治験薬交付、TMFは必須文書というように、それぞれのシステムには本来の役割があります。CTMSが各システムの機能を置き換える必要はありません。

CTMSに必要なのは、試験の進捗を把握し、リスクを評価し、次に必要なアクションを判断するための情報です。例えば、CTMS上で詳細な症例データを確認する必要はありませんが、症例が登録されたか、予定された来院が行われているか、データ入力に遅れがあるかといった情報は、試験や施設の状況を判断するために役立ちます。

つまり、CTMSはすべてのデータを保有するシステムではなく、各業務システムから必要な情報を受け取り、試験運用の判断とアクションにつなげるハブとして位置づけることができます。

ctmshub

ここからは、CTMSを中心とした代表的なデータ連携と、そのメリットについて考えてみます。まず、症例データを中心としたRTSMとCTMSのデータ連携、EDCとCTMSのデータ連携について考えます。

1.RTSMとCTMSの連携

RTSM(Randomization and Trial Supply Management)は、症例の登録や無作為化、治験薬の割り当て、在庫、配送などを管理するシステムです。

RTSMとCTMSを連携していない場合、CRAがRTSMで症例の状況を確認し、スクリーニング実施日、無作為化実施日、中止日などの情報をCTMSへ転記する必要があります。

RTSMからCTMSへ連携する代表的な情報としては、以下が考えられます。

  • スクリーニングの実施
  • 無作為化の実施
  • 症例の中止・完了
  • 施設別の症例登録数

RTSMとCTMSを連携するメリット

1)症例進捗の入力作業の削減

RTSMに登録された症例ステータスをCTMSへ自動で連携すれば、CRAが同じ情報をCTMSへ入力する必要がなくなります。二重入力を削減することで、業務工数だけでなく、転記ミスや更新漏れのリスクも減らせます。

2)症例登録状況のタイムリーな把握

RTSMは、実際に症例登録や無作為化が行われる業務プロセスの中で使用されます。その情報をCTMSへ連携することで、施設別、国別、試験全体の症例進捗を、リアルタイムに正確な情報で確認できるようになります。

3)リスクベースドモニタリングでの活用

被験者がすでにRTSMへ登録されているにもかかわらず、CRAがCTMSへ情報を入力していない場合、CTMS上では被験者が存在していないように見えることがあります。RTSMから被験者情報を連携することで、被験者の登録を起点としてCTMS上で被験者管理を開始できます。

これにより、今後予定される来院やモニタリング対象を把握しやすくなります。また、登録された被験者数や施設の活動状況を基に、どの施設を優先的に確認すべきかを判断し、施設訪問やフォローアップを計画するための情報として活用できます。

4)症例登録の遅れの早期検知

CTMS上の計画症例数や登録計画とRTSMから連携された実績を比較することで、登録が予定より遅れている施設や国・地域を特定できます。これにより、施設への支援、追加施設の検討、登録計画の見直しなどを早期に行えます。

5)施設への症例費用支払いのトリガー

海外では、症例登録、無作為化、治験薬投与といったRTSMの業務イベントを、CTMS経由で施設支払いシステムへ連携することがよく行われています。手作業で支払い対象を確認する場合と比べ、支払い漏れや確認作業を削減しやすくなります。

2.EDCとCTMSの連携

EDC(Electronic Data Capture)は、症例報告書のデータを収集・管理するシステムです。EDCとCTMSを連携することで、単に「何例登録されたか」だけでなく、症例の来院状況やデータ入力がどこまで進んでいるかをCTMS上で確認できるようになります。

EDCからCTMSへ連携する情報の例として、以下が挙げられます。

  • 症例の登録・完了・中止状況
  • 来院の実施状況
  • CRFの入力状況
  • SDV・SDRの進捗状況

EDCとCTMSを連携するメリット

1)実際の試験実施状況の把握

CTMSに登録された症例数や症例の中止状況だけでは、症例登録後の来院やデータ入力が予定どおり進んでいるかまでは把握できません。EDC上の症例ステータス、来院情報、データ入力状況などをCTMSへ連携することで、症例登録後の進捗も含めて試験の実施状況を確認できるようになります。これにより、症例数だけでは見えにくい、データ入力の遅延や未完了の来院データなどの早期把握が可能になります。

2)リスクベースドモニタリングへの活用

EDCとCTMSを連携することで、CTMS上の症例の予定来院日や来院実績と、EDC上のデータ入力状況を照合できるようになります。例えば、来院が実施されているにもかかわらず、一定期間が経過してもEDCへデータが入力されていない場合には、施設でのデータ入力が遅れている可能性があります。また、施設が予定どおりEDCへデータを入力していても、SDVの対象となるデータが長期間未確認のままであれば、CRAによる対応が遅れている可能性があります。

EDCからデータ入力状況やSDVの進捗をCTMSへ連携することで、このような状況も確認しやすくなります。施設からEDCへ情報が入力されるまでは、データ上の問題を把握することは困難です。しかし、入力状況やSDVの進捗を継続的に可視化することで、問題の早期把握と、優先的にフォローアップすべき施設の特定が可能になります。

3)施設・医師・ユーザー情報の活用

ここまでは、EDCからCTMSへのデータ連携について説明しましたが、施設、医師、ユーザーなどの共通マスタを、CTMSからEDCへ連携することもあります。例えば、CTMS上で施設の立ち上げが完了した際に、施設情報、医師情報、ユーザー情報をEDCへ連携することで、EDC側のセットアップを効率化できます。

これにより、システムごとに同じ情報を入力する作業の削減、施設名や医師名、施設番号などの表記揺れや登録ミスの防止、システム間のデータの一貫性の確保が可能になります。また、施設の追加や担当者の変更が発生した場合にも、CTMSを起点として必要な情報をEDCへ連携することで、より迅速かつスムーズなシステムセットアップが可能になります。


次回は、オペレーションデータを中心としたデータ連携について考えます。

参考資料

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