前回は、症例データを中心としたRTSMとCTMSのデータ連携、EDCとCTMSのデータ連携について考えました。今回は、オペレーションデータを中心としたデータ連携について考えます。

3.CROのCTMSとスポンサーのCTMSの連携
モニタリングや試験管理をCROへ委託する場合、CROが自社のCTMSを使用することがあります。スポンサーが複数のCROへ試験を委託している場合、CROごとに使用するCTMSやレポート様式が異なることがあります。そのため、スポンサーは各CROから受領した情報を手作業で統合し、共通の基準に基づいて試験の進捗やリスクを確認しなければなりません。複数のシステムやレポートから情報を収集し、内容を確認・加工する作業には多くの工数がかかります。また、情報の更新タイミングが異なることで、スポンサーが最新の状況を把握しにくくなることもあります。こうした課題に対応するため、CROのCTMSとスポンサーのCTMSをデータ連携することがあります。
両者のCTMS間で連携する情報としては、以下が考えられます。
- 試験、国、施設のマイルストーン
- 施設の選定・開始・終了ステータス
- モニタリングビジットの予定と実績
- CROおよび施設担当者のアサイン情報
CROのCTMSとスポンサーのCTMSを連携するメリット
1)CROからの報告待ちの削減
主要なマイルストーンや活動実績をCROのCTMSからスポンサーのCTMSへ連携することで、スポンサーは定例会議や月次レポートを待たずに、試験の状況を確認できるようになります。
これにより、施設立ち上げの遅延やモニタリング訪問の未実施など、対応が必要な状況を早期に把握しやすくなります。また、会議では資料の読み上げや確認に時間を費やすのではなく、課題への対応や意思決定に、より多くの時間を充てられるようになります。
2)複数CROの情報の統一管理
CROごとにCTMSやレポート様式が異なる場合でも、スポンサーのCTMSでは、共通のマイルストーン、KPI、ステータス定義などを用いて情報を管理できます。これにより、「CRO Aが担当する試験は専用レポート、CRO Bが担当する試験は別のExcelで確認する」といった分散管理を減らし、複数の試験やCROを横断した比較がしやすくなります。また、CROごとの情報を共通の形式で蓄積することで、施設立ち上げ期間、モニタリング訪問の実施状況、マイルストーンの遅延などを、統一された基準で評価できるようになります。
3)手作業とデータ不整合の削減
CROから受領したレポートの内容をスポンサー側でExcelやCTMSへ転記する運用では、入力作業に多くの時間がかかるだけでなく、転記ミスや更新漏れが発生する可能性があります。CTMS間でデータを連携することで、同じ情報を複数のシステムへ入力する作業を減らし、CRO側とスポンサー側で管理するデータの一貫性を保ちやすくなります。
データ連携時の留意点
CROのCTMSとスポンサーのCTMSを連携する場合でも、CRO側の情報をすべてスポンサーのCTMSへコピーする必要はありません。スポンサーがCRO Oversightや意思決定を行うために必要な情報を明確にし、連携対象を必要な範囲に限定することが重要です。連携するデータが多すぎると、管理や照合作業が複雑になり、かえって運用負担が増える可能性があります。また、データ項目の定義、更新頻度、修正時の処理、どちらのシステムを正とするかを、CROとの契約やデータ連携仕様書で明確にする必要があるでしょう。
4.CTMSとTMFの連携
eTMF(electronic Trial Master File)は、治験の計画、実施、監督が適切に行われたことを示す必須記録を管理するシステムです。CTMSでは試験や施設の活動を管理し、その活動の結果として、モニタリング報告書、フォローアップレター、施設選定記録などの文書が作成されます。CTMSとTMFを連携する情報の例としては、以下があります。
- CTMSで作成・承認されたモニタリング報告書
- フォローアップレター
- 施設選定・開始・終了に関連する記録
- 文書の試験、国、施設、文書種別などのメタデータ
CTMSとTMFを連携するメリット
1)文書ファイリングの自動化
CTMSで承認されたモニタリング報告書やフォローアップレターなどを、自動的に適切なTMFの分類へ登録できます。これにより、担当者がCTMSから文書をダウンロードし、改めてTMFへアップロードする作業を削減できます。また、手作業によるファイリング先の選択ミスや、文書の登録漏れを防ぎやすくなります。
2)メタデータの重複入力の削減
試験番号、国、施設番号、訪問日、文書種別などのメタデータをCTMSからTMFへ引き継ぐことで、TMFへの登録時に同じ情報を再入力する必要がなくなります。これにより、入力工数を削減できるだけでなく、システム間の表記揺れや入力ミスを防ぎ、文書情報の一貫性を保ちやすくなります。
3)TMFの完全性の継続的な確認
CTMSに登録されたマイルストーンや活動実績を基に、本来作成・保管されるべき文書を特定し、TMF上の登録状況と比較できます。例えば、SIV(Site Initiation Visit)のマイルストーンが完了しているにもかかわらず、対応するモニタリング報告書がTMFに登録されていない場合には、文書の未作成や未ファイリングを早期に検知することができます。
TMFとCTMSのデータ連携により、試験終了時にまとめて不足文書を確認するのではなく、試験実施中からTMFの完全性を継続的に確認し、必要な対応を速やかに行えるようになります。
5.CTMSとStudy Start-Upシステムの連携
Study Start-Up(SSU)システムは、施設調査、施設選定、契約、規制関連文書の収集、施設アクティベーションなど、試験開始前の業務を管理するシステムです。SSUとCTMSの間で連携する情報として、以下が考えられます。
- 施設・医師の基本情報
- 施設調査の結果
- 施設選定の決定
- 契約・予算交渉の状況
- IRB・倫理審査や規制関連文書の状況
- 施設アクティベーションのマイルストーン
CTMSとStudy Start-Upを連携するメリット
1)施設選定から試験実施への円滑な引き継ぎ
Study Start-Up(SSU)システムで選定・立ち上げが完了した施設の情報をCTMSへ自動連携することで、試験開始後に施設情報や医師情報を再入力する必要がなくなります。SSUとCTMSのそれぞれに同じ情報を手作業で登録すると、施設名や医師名の表記揺れ、入力ミス、重複レコードなどが発生する可能性があります。共通の施設・医師マスタを利用し、システム間で情報を連携することで、重複入力の削減とデータの一貫性の確保が可能になります。また、施設選定から施設立ち上げ、試験実施までの情報を切れ目なく引き継ぐことで、試験開始後のモニタリングや施設管理へ、より円滑に移行できるようになります。
2)試験立ち上げプロセス全体の可視化
施設調査、施設選定、契約、IRB/EC、必要記録の収集など、試験立ち上げに関わる複数のプロセスを、一連のタイムラインとして確認できるようになります。
SSUで管理されている各プロセスの進捗やマイルストーンをCTMSへ連携することで、試験、国・地域、施設ごとの立ち上げ状況を一元的に把握できます。これにより、契約、IRB/EC、必須記録収集など、どの工程がボトルネックになっているのかを特定しやすくなります。
6.CTMSと施設への支払いシステムの連携
日本では、契約時に前払いが一般的ですが、海外では、施設との契約条件に基づき、症例登録、来院、症例完了などの実績に応じて支払いを行う方式が広く採用されています。支払い対象となる活動を手作業で確認する場合、EDC、RTSM、CTMS、請求書、Excelなど、複数のシステムや資料を照合しなければなりません。そのため、確認作業に多くの工数がかかるだけでなく、支払い漏れや二重払いが発生するリスクもあります。CTMSと施設支払いシステムの間で連携する情報として、以下が考えられます。
- 試験、施設、医師の基本情報
- 症例登録や来院の実績
- 症例の中止・完了状況
- 支払い処理に必要な活動実績
CTMSと施設支払いシステムを連携するメリット
1)業務イベントに基づく支払い対象の特定
症例登録、来院、症例完了、施設開始などの実績を施設支払いシステムへ連携することで、支払い対象を自動的に特定しやすくなります。これにより、担当者が複数のシステムや資料を確認し、支払い対象を手作業で抽出する負担を軽減できます。
2)支払い漏れ・二重払いリスクの低減
症例や施設の活動実績をシステム上で照合することで、担当者の記憶やExcel管理に依存しない支払いプロセスを構築できます。また、支払い対象となるイベントと処理済みの支払い情報を関連付けて管理することで、未払いの把握や同じ活動に対する重複支払いの防止につながります。
支払いの基礎となるイベントは、症例登録や無作為化の情報はRTSM、来院や症例完了の情報はEDCで管理されます。これらの進捗情報をRTSMやEDCからCTMSへ連携し、CTMSで試験・施設情報と関連付けたうえで、施設支払いシステムへ連携するデータフローが考えられます。このような連携により、CTMSを試験運営上のイベントと施設支払いをつなぐハブとして活用することができます。
まとめ
CTMSを中心としたデータ連携の目的は、単に複数のシステムを技術的につなぐことではありません。RTSM、EDC、CROのCTMS、TMF、Study Start-Up、施設支払いなどのデータを、試験運用に必要なタイミングと粒度でCTMSへつなぐことで、以下のような効果が期待できます。
- 重複入力や手作業による転記を削減する
- データの不整合や更新漏れを減らす
- 試験、国、施設の最新状況を把握する
- 問題やリスクの兆候を早期に検知する
- CRO Oversightを強化する
- 手作業によるレポート作成を削減する
- 試験横断・ポートフォリオ横断の分析を可能にする
- データに基づいた意思決定を支援する
これまでのCTMSは、担当者が実施した活動を入力し、記録として残すシステムという側面が強かったかもしれません。これからのCTMSには、各システムから業務イベントを受け取り、計画と実績を比較し、リスクを可視化し、必要なアクションへつなげる役割が求められます。CTMSを単独の業務システムとしてではなく、臨床試験に関わるデータと業務プロセスをつなぐ「試験運営のハブ」として設計することが、データドリブンな臨床開発を実現するための重要なポイントになります。
これからのCTMS選定
これからのCTMSに求められるのは、日本で使えることだけではありません。グローバルでも使え、日本の業務にも対応できることが重要です。日本のGCPや商習慣に対応しながら、グローバル試験の進捗、リスク、Issue、CRO Oversightを一元的に管理でき、他のシステムともフレキシブルにデータ連携できるCTMSを選ぶことが重要になるでしょう。
CTMSは、単なる日報システムではありません。ICH E6(R3)時代のCTMSは、試験を動かし、リスクを見える化し、品質を作り込むためのシステムであるべきです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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