
近年、日本で実施される治験において、国際共同治験の重要性が高まっています。特に新薬開発では、国内試験だけで開発を完結させるケースは減少し、複数の国・地域で同時に試験を進めることが一般的になっています※。
こうした環境の中で、なぜ今、日本型CTMSからグローバルCTMSへの移行を検討する製薬企業が増えているのでしょうか。その背景には、日々の試験管理における業務上の課題、臨床開発環境の変化、そして規制要件の変化があります。
※参考:日本製薬工業協会「近年における国際共同治験の動向調査」
https://www.jpma.or.jp/opir/news/066/bvd7r100000003tq-att/66_5.pdf
この記事で分かること
- 情報が分散した試験管理で起きやすい課題
- グローバルCTMSが果たす役割と期待できる効果
- CROのCTMSと依頼者のCTMSをどう考えるべきか
業務上の課題
日本型CTMSとグローバルCTMSが併存している場合、最も大きな課題の一つは、試験全体の状況を一元的に把握しにくいことです。
例えば、国内試験は日本型CTMS、海外試験はグローバルCTMS、CROへ委託している試験はCRO側のシステムや定期レポートで管理されているとします。このような環境では、依頼者が試験の全体像を把握するために、複数のシステムや情報源を確認しなければなりません。
個々のシステムだけを見れば、必要な情報は管理できているように見えるかもしれません。しかし、複数の試験を横断して進捗、施設情報、担当者、課題、リスクなどを確認しようとすると、情報の分散が大きな負担になります。
国内の進捗は日本型CTMS、海外の進捗はグローバルCTMS、CROが実施している活動は定期会議での報告を待つ、という運用では、依頼者が最新の状況をタイムリーに把握することが難しくなります。その結果、問題の発見が遅れたり、意思決定に必要な情報を集めるために多くの手作業が発生したりする可能性があります。
また、施設・医師情報が一元管理されていない場合、施設調査や施設選定にも影響します。
例えば、同じ製品のA試験をCRO 1に、B試験をCRO 2に委託しているケースを考えてみます。それぞれのCROが同じ施設へ重複してアプローチしていても、依頼者側で状況を把握できていなければ、同様の調査や依頼が繰り返されることがあります。これは施設調査・施設選定の非効率につながるだけでなく、対応する医療機関側の負担を増やす要因にもなります。
さらに、試験進捗や症例登録状況をExcelで管理し、意思決定用のレポートを手作業で作成している場合、データの入力、転記、確認、ダブルチェックに多くの工数がかかります。Excelは柔軟で便利なツールですが、複数試験、複数の国・地域、複数CROを横断して継続的に管理するには限界があります。このように、システムや情報源が分散している状態では、試験管理が属人的になりやすく、CRO Oversightやポートフォリオ管理の観点でも課題が残ります。
主な業務上の課題を整理すると、以下のようになります。
- 試験全体の状況を一元的に把握しにくい
国内と海外で使用しているCTMSが異なる場合、試験全体の進捗やリスクを確認するために、複数のシステムやレポートを参照する必要があります。 - CROからの報告待ちが発生する
モニタリングや試験管理をCROへ委託している場合、依頼者が最新の状況を把握するために、CROからの定期報告や会議を待たなければならないことがあります。その結果、問題の早期発見や対応が遅れる可能性があります。 - 施設・医師情報が一元管理されない
施設・医師情報が試験ごと、CROごとに分散していると、過去の実績、現在の依頼状況、重複アプローチの有無などを把握しにくくなります。これは施設調査・施設選定の非効率や、医療機関側の負担増加につながります。 - Excelによる補完管理が増える
CTMSだけでは必要な情報を確認できない場合、試験進捗、症例登録状況、施設別の活動状況などをExcelで補完することになります。Excel管理が増えるほど、転記ミス、更新漏れ、ファイルのバージョン不整合といったリスクも高まります。 - 意思決定用レポートの作成に手作業が発生する
複数のシステムから情報を集め、ExcelやPowerPointでレポートを作成する場合、資料作成そのものに時間がかかります。さらに、元データとの整合性確認やダブルチェックも必要になります。 - 情報がCROごと、地域ごとにサイロ化する
CROや国・地域ごとに管理方法が異なると、試験横断での比較や分析が難しくなります。どこで遅延が起きているのか、どの施設で課題が多いのか、どの領域に追加対応が必要なのかを把握しにくくなります。 - CRO Oversightが難しくなる
依頼者がCROの活動状況をタイムリーに確認できない場合、CRO Oversightは定期報告や会議資料に依存しがちです。その結果、問題が顕在化してから対応する、事後的な管理になりやすくなります。 - 試験管理が属人的になりやすい
情報が複数のシステム、Excel、メール、会議資料などに分散していると、特定の担当者でなければ状況が分からない状態になりがちです。担当者の変更時には、引き継ぎにも大きな負担がかかります。

臨床開発環境の変化
グローバルCTMSが必要とされる背景には、臨床開発環境そのものの変化もあります。近年、製薬企業がすべてのモニタリング業務を自社で実施するのではなく、CROへ委託するケースが増えています。また、国際共同治験の増加により、国内だけでなく、複数の国・地域を横断して試験を管理する必要性が高まっています。
さらに、リモートモニタリングやセントラルモニタリング、データに基づく試験管理の活用も広がっています。こうした変化に対応するためには、単に訪問記録や報告書を保存するだけでなく、試験全体の状況をタイムリーに把握し、課題やリスクを継続的に管理できる仕組みが必要です。
主な環境変化として、以下が挙げられます。
- CROへモニタリングや試験管理を委託する試験の増加
- 国際共同治験の増加と、国内単独試験の相対的な減少
- リモートモニタリング、セントラルモニタリングの拡大
- データドリブンな試験管理の重要性の高まり
- CRO Oversightの重要性の高まり
- Issue ManagementおよびRisk Managementの高度化
- ICH E6(R3)やICH E8(R1)などを踏まえた品質管理の考え方の変化
これらの変化に人的リソースだけで対応するには限界があります。新しい考え方を実務へ落とし込むためには、モニタリング報告書を保存するだけでは不十分です。試験全体の状況を把握し、リスクを可視化し、必要なアクションを担当者と期限にひも付けて管理し、問題の兆候を早期に検知できる仕組みが必要になります。
つまり、CTMSには「記録を残すシステム」としての役割だけでなく、「試験を管理し、リスクを把握し、品質を試験プロセスに作り込むシステム」としての役割が求められるようになっています。
グローバルCTMS導入のメリット
グローバルCTMSを導入し、試験管理のプロセスやデータを標準化することで、以下のようなメリットが期待できます。
- 各国・各地域の進捗状況を依頼者自身が確認できる
- CROからの報告を待つ場面を減らせる
- 誰が、どの役割で試験にアサインされているかを把握できる
- どの国・施設で問題が発生しているかを早期に確認できる
- マイルストーン、活動項目、報告様式を標準化できる
- 手作業による資料作成の工数を削減できる
- CROの活動状況を可視化できる
- CRO Oversightを強化できる
- 国・地域ごとの情報のサイロ化を防止できる
- 課題やリスクを複数の試験にまたがって把握しやすくなる
特に重要なのは、問題の兆候を早期に把握できることです。
遅延や未完了タスク、未解決の課題、施設ごとのリスクなどは、時間が経過するほど影響範囲が広がり、対応が難しくなることがあります。グローバルCTMSを通じてこうした兆候を早い段階で把握できれば、関係者が迅速に状況を確認し、必要な意思決定や是正措置を行いやすくなります。
「CROのCTMSを使えばよい」のか
グローバルCROへ試験を委託する場合、CROが自社のCTMSを保有しているため、「依頼者側でグローバルCTMSを持つ必要はない」という考え方もあります。
もちろん、CROのCTMSを利用すること自体に問題があるわけではありません。CROが自社の業務プロセスに適したCTMSを使用することで、モニタリング活動やプロジェクト管理を効率的に実施できる場合もあります。
一方で、CROごとに使用するシステムが異なる場合、依頼者は試験ごとに異なるシステムやレポートを確認しなければなりません。日本型CTMS、複数のCROが使用するCTMS、Excelや定期レポートが併存すれば、試験全体や開発ポートフォリオの状況を統一した視点で把握することは難しくなります。
また、CROが使用するシステムやレポーティングに関する費用は、契約形態によっては、モニタリング活動やプロジェクト管理費用の一部として依頼者が負担する場合があります。依頼者側でも別のCTMSを維持している場合には、システムや運用が重複し、コストと管理負担が増える可能性もあります。重要なのは、「どのCTMSを誰が使うか」だけではありません。依頼者として、試験全体をどのように把握するのか、複数のCROをどのように監督するのか、課題やリスクをどのように管理し、意思決定へつなげるのかを明確にする必要があります。そのためには、依頼者側でも、複数の試験やCROの情報を一元的に確認できる仕組みを持つことが重要です。
一つの方法として、CROのCTMSと依頼者のCTMSをデータ連携し、主要なマイルストーン、活動状況、課題、リスクなどを共有するアプローチがあります。この方法であれば、CROは自社の業務に適したCTMSを使いながら、依頼者は複数のCROや国・地域の進捗状況を、自社のCTMS上で統一した基準により把握できます。これにより、依頼者はCROの業務を細部まで二重管理するのではなく、必要な情報に基づいて、効果的なCRO Oversightとリスク管理を行えるようになります。
グローバルCTMS導入で重要なこと
グローバルCTMSを導入すれば、自動的にすべての課題が解決するわけではありません。システムの導入と同時に、どの情報をCTMSで管理するのか、依頼者とCROの役割をどう分担するのか、どの指標を使って試験やリスクを評価するのかを整理する必要があります。
また、各国・各地域で異なる業務をすべて一律に統一するのではなく、グローバルで共通化するプロセスと、地域ごとの要件・プロセスを切り分けることも重要です。
グローバルCTMSへの移行は、単なるシステムの置き換えではありません。分散していた情報と業務プロセスを見直し、依頼者が試験全体を主体的に管理するための基盤を構築する取り組みといえるでしょう。
次回は、CTMSのデータ連携について考えます。
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