日本型CTMSにはあまり見られず、グローバルCTMSでよく使われるものに、Confirmation Letter とFollow-up Letterがあります。どちらもモニタリング訪問に関連する文書ですが、役割は異なります。Confirmation Letterは訪問前に使用され、Follow-up Letterは訪問後に使用されます。つまり、
- Confirmation Letterは「これから何をするのか」を施設と確認する文書
- Follow-up Letterは「訪問後に何を対応してもらう必要があるのか」を施設に伝える文書
この2つを見ていくと、日本型CTMSとグローバルCTMSの設計思想の違いがよく分かります。
1. 訪問前を管理する ― Confirmation Letter
Confirmation Letterとは
Confirmation Letterは、モニタリング訪問前に、訪問予定を施設と確認・合意するための文書です。主な内容は以下の通りです。
- 訪問日時
- 訪問場所
- 訪問目的、例:SDV、IMV、COVなど
- 訪問者情報
- 施設側に準備してほしい資料や対象症例
- その他、訪問前に確認すべき事項
日本型CTMSでは、訪問依頼や日程調整はシステム外、主にメールで行われることが多いと思います。一方、グローバルCTMSでは、訪問予定をシステム上で管理し、その情報をもとにConfirmation Letterを出力する運用が一般的です。
従来のメールによる訪問依頼の課題
従来の運用では、モニタリング訪問の依頼や日程調整は、メールで行われることが一般的です。もちろん、メールは柔軟で使いやすい手段です。しかし、試験管理という観点で見ると、メールによる訪問依頼には、大きく2つの課題があります。
課題1:訪問依頼の属人化
まず、メールは担当者個人のメールボックスに保管されるため、後から確認しようとしたときに探しにくいことがあります。特に、複数の試験、複数の施設、複数の訪問予定を並行して管理している場合、訪問依頼のメールが他のやり取りに埋もれてしまうことがあります。また、メール本文が標準化されていない場合、訪問目的、準備してほしい資料、対象症例、訪問者情報などに抜け漏れが生じる可能性があります。モニターごとに記載内容が異なると、施設側も何を準備すべきか判断しにくくなります。
課題2:メールとCTMSの情報分断
さらに、メールで行った訪問依頼は、CTMS上の訪問予定や進捗情報と必ずしも連動しません。そのため、システム上では訪問予定が管理されていても、施設と何を合意したのか、どの資料を準備してもらうことになっていたのかを、別途メールで確認しなければならないことがあります。
つまり、メールによる訪問依頼は実務上は便利ですが、試験全体の進捗管理、標準化という観点では限界があります。では、Confirmation Letterを使用すると、これらの課題はどのように変わるのでしょうか。
Confirmation Letterを使うメリット
Confirmation Letterを使うメリットは、訪問前の内容を文書として明確に残せることです。モニタリング訪問では、単に「何月何日に訪問します」という日程確認だけでなく、訪問目的、確認対象、施設側に準備してもらう資料、対応してほしい担当者などを事前に明確にしておく必要があります。Confirmation Letterを使用することで、これらの情報を標準化された形式で施設に伝えることができます。
特に重要なのは、訪問目的と準備事項を明確にできる点です。
例えば、SDVを行うのか、未解決Queryの確認を行うのか、治験薬管理状況を確認するのかによって、施設側が準備すべき資料や対応者は変わります。Confirmation Letterによって、訪問前に必要な準備を明確に伝えておけば、当日の確認漏れや手戻りを減らすことができます。
また、Confirmation Letterはテンプレート化されているため、モニターごとの記載のばらつきを抑えることができます。訪問目的、日時、場所、準備事項など、必要な項目を一定の形式で記載することで、依頼内容の抜け漏れを防ぎやすくなります。
さらに、Confirmation LetterをCTMSから出力する運用にすれば、訪問予定と文書がシステム上で結びつきます。これにより、誰が、いつ、どの施設を訪問する予定で、その訪問にあたって何を依頼していたのかを後から確認しやすくなります。
Confirmation Letterは単なる訪問案内ではありません。訪問前の合意内容を標準化し、施設側の準備を促し、モニタリング活動を計画通りに進めるための重要な管理文書といえます。
Confirmation Letterが「訪問前に何をするか」を明確にするための文書だとすれば、訪問後には「次に何をしてもらうか」を明確にする必要があります。そこで使われるのがFollow-up Letterです。
2. 訪問後を管理する ― Follow-up Letter
Follow-up Letterとは
Follow-up Letterは、モニタリング訪問後に、重要事項や是正依頼を施設へ通知するための文書です。主な内容は以下の通りです。
- 指摘事項、例:Protocol Deviation、未解決Queryなど
- 是正・対応依頼事項
- 対応期限
- 重要な確認事項の再通知
- 次回訪問予定
- その他、施設に求めるアクション
Follow-up Letterのポイントは、単なる訪問記録ではなく、施設へのアクション要求が中心であるという点です。
従来のフォローアップの課題
日本では、訪問後のフォローアップがメールやモニタリング報告書の中で行われることがあります。しかし、この方法には大きく3つの課題があります。
課題1:フォローアップ記録の属人化
まず、メールでフォローアップを行う場合、そのメールが正式な記録として適切に保存されているとは限りません。送信したモニターのメールボックスには残っていても、試験の正式な記録として保管されていなければ、後から確認することが難しくなります。保存し忘れや、担当者変更時の引き継ぎ漏れも起こり得ます。
課題2:重要な依頼メールが埋もれる
また、施設側でもメールが他の連絡に埋もれてしまうことがあります。特に、複数の依頼者、複数の試験を担当している施設では、日々多くのメールが届きます。その中で、是正依頼や対応期限を含む重要なメールが見落とされるリスクは決して小さくありません。
課題3:モニタリング報告書 ≠ 施設への伝達
さらに、モニタリング報告書は基本的に依頼者側の社内文書です。モニタリング報告書に指摘事項や対応依頼が記載されていたとしても、それが施設に正式に伝達されたことを直接示すものではありません。つまり、報告書に書いてあることと、施設に伝えたことは、必ずしも同じではありません。
この点は、問題が再発した場合に特に重要になります。例えば、同じProtocol Deviationが繰り返し発生した場合、依頼者が施設に対して適切に是正を依頼していたのか、それとも依頼内容が十分に伝わっていなかったのかを確認する必要があります。メールや報告書だけで管理していると、この切り分けが難しくなることがあります。
加えて、是正依頼の内容や期限がメール本文や報告書内に散在していると、未解決事項を継続的に追跡することが難しくなります。誰が、何を、いつまでに対応するのかが明確に管理されていなければ、フォローアップそのものが属人的になってしまいます。
つまり、従来のフォローアップは、実務上は成立していても、期限管理、Issue管理、CRO Oversightという観点では課題が残りやすい運用といえます。
POINT
「モニタリング報告書に書いてあること」と
「施設に伝えたこと」は、必ずしも同じではない。
Follow-up Letterを使うメリット
Follow-up Letterを使う最大のメリットは、訪問後に施設へ伝えるべき事項を、正式な文書として明確に残せることです。
モニタリング訪問後には、未解決Query、Protocol Deviation、必須文書の不備、治験薬管理上の確認事項など、施設に対応を依頼すべき事項が発生することがあります。Follow-up Letterを使用することで、これらの事項を整理し、施設に対して「何を、いつまでに対応してほしいのか」を明確に伝えることができます。
特に重要なのは、是正依頼の証跡になる点です。Follow-up Letterがあれば、依頼者が施設に対してどのような問題を指摘し、どのような対応を求め、どの期限を設定したのかを後から確認できます。これは、同じ問題が再発した場合や、対応遅延が発生した場合に非常に重要です。
例えば、施設で同じ逸脱が繰り返し発生した場合、依頼者が過去に適切な是正依頼を行っていたのか、それとも依頼内容が曖昧だったのかを確認する必要があります。Follow-up Letterがあれば、依頼者側の対応と施設側の対応状況を切り分けて確認しやすくなります。
また、Follow-up Letterは未解決事項の継続的な追跡にも有効です。訪問ごとに指摘事項や対応期限を文書化しておけば、次回訪問時に何を確認すべきかが明確になります。前回依頼した事項が完了しているのか、期限を過ぎているのか、追加対応が必要なのかを確認しやすくなります。
さらに、Follow-up LetterをCTMS上のアクティビティやIssue Managementと連動させることで、単なる文書作成にとどまらず、施設ごとのリスク管理にも活用できます。対応遅延が多い施設、同じ指摘が繰り返される施設、重要なIssueが未解決のまま残っている施設を把握できれば、リスクに応じたモニタリング計画の見直しにもつなげることができます。
Follow-up Letterは単なる訪問後のお礼状や報告文書ではありません。施設へのアクション要求を明確にし、是正依頼の証跡を残し、未解決事項を継続的に管理するための重要な品質管理ツールです。
3. モニタリング報告書だけで十分なのか
日本型CTMSが日報・記録をベースにしている場合、Confirmation Letterのような「未来のアクティビティ」を登録する発想が弱くなりがちです。また、Follow-up Letterを別文書として作成せず、モニタリング記録の中に残す運用になっているケースもあると思います。
しかし、モニタリング報告書は主に依頼者側の記録であり、施設に対する依頼内容や合意内容を直接管理するものではありません。訪問前に何を依頼したのか、訪問後に何を対応してもらう必要があるのか、そしてその依頼が期限までに対応されたのかを管理するには、モニタリング報告書だけでは不十分な場合があります。
ICH E6(R3)時代の品質管理では、実施したことを記録するだけでなく、リスクに応じて必要な活動を計画し、実施状況を確認し、未解決事項を継続的にフォローすることが重要になります。
その意味で、Confirmation LetterとFollow-up Letterは、単なる手紙ではありません。訪問前の準備、訪問後の是正依頼、未解決事項の追跡を、より明確に、より標準化して管理するための仕組みです。
日本でも、Confirmation LetterやFollow-up Letterの活用を検討する価値は十分にあるのではないでしょうか。
次回は、ICH E6(R3)にCTMSでどう対応すればよいかを考えます。
