近年、RTSM(Randomization and Trial Supply Management)が臨床試験の実施において重要な役割を果たしていることが広く認識されています。
RTSMは、被験者の無作為化と治験薬のサプライチェーンを管理するために設計された包括的なシステムで、これにより、被験者の無作為割り付けや治験薬情報の管理、治験薬の再配送や在庫状況の可視化などの管理を効果的にすることが可能となります。
これまでRTSMにフォーカスし、全シリーズ5回に分けてRTSMの基本的な概念から具体的な利点、今後の展望まで探ってきました。
シリーズ:RTSM(Randomization and Trial Supply Management)を探る – 臨床試験のデジタルフォーメーション
第1回 今更ですが知っていますか?IVRS、IWRS、IRTとRTSMの違い
第2回 改めて考えてみるITシステムの観点から見たTrial Supplyの重要性
第4回 RTSMのデータ連携 with EDC:構築期間をなぜ短縮できるのか?QbD (Quality by Design) をどう実現できるのか?
第5回 RTSMのデータ連携 with CTMS:QbD (Quality by Design) をどう実現できるのか?
本シリーズについて、大変ご好評をいただいております。皆様お読みいただきありがとうございます。(ご意見・ご質問などございましたら是非ご連絡ください。)
ご好評につき、今回は続編として「第6回:治験薬を有効に使う」をご紹介します。
【続編】RTSMを探る 第6回:治験薬を有効に使う
「第2回:改めて考えてみるITシステムの観点から見たTrial Supplyの重要性」でも触れたようにこれまでのIVRS/IWRS/IRTとRTSMの違いはTrial Supplyにあります。
製薬メーカーにとってはせっかく用意した治験薬を有効に活用したいと思う一方で、治験薬の有効期限管理については厳密が管理が要求されます。治験薬の有効期限管理についてはこれまでもPMDA主催のGCP研修会でも毎年のように指摘され担当者にとって大きな課題となっています。https://www.pmda.go.jp/files/000250378.pdf
近年、治験薬の製造費用が高騰する中、いかに治験薬を有効に使うか、症例単位で治験薬を配送・交付した場合とビジット単位で治験薬を配送・交付した場合に違いが出るのかについて詳しく考えてみたいと思います。
<症例単位での配送・交付>
1症例分(全ビジット)が1箱にまとめて包装
- メリット:管理が容易
- デメリット:途中脱落した場合、治験薬が無駄になる。高価な治験薬の場合、非常に大きな損失になります。
<ビジット単位での配送・交付>
1症例の1ビジット分だけ包装
- メリット:途中脱落しても治験薬が無駄にならない
症例単位での交付と比較して有効期限ぎりぎりまで交付することができる - デメリット:施設での交付作業が症例単位での交付と比較して煩雑になる(煩雑になるためマニュアルでの対応は間違いを生む可能性があり、システム化が必須)
再供給戦略を考慮する必要がある
症例単位で治験薬を交付する場合、その症例の最終ビジットまで有効期限が確保されている治験薬が交付される必要があります。
長期にわたる試験の場合、かなり有効期限が残っている治験薬しか交付できないことになり、治験薬の有効利用という点で損失になります。
下記を見てみると1ビジット分(+Time window)直前まで治験薬を配送できることになります。


では、ビジット単位での配送することによってどのくらい治験薬を有効に活用できるのか試算してみたいと思います。
24か月の有効期限・治療期間3カ月(12週間)・ビジット4週毎の場合
- 症例単位で配送した場合:21か月時点までに配送しなくてはならない
- ビジット単位で配送した場合:23か月時点までに配送しなくてはならない
- (ビジット単位で配送することによる)効率化
- 23/21*100=110%(10%改善)
- 治験薬の1回の製造を1000万とすると100万円の有効活用
24か月の有効期限・治療期間6カ月(28週間)・ビジット4週毎の場合
- 症例単位で配送した場合:18か月時点までに配送しなくてはならない
- ビジット単位で配送した場合:23か月時点までに配送しなくてはならない
- (ビジット単位で配送することによる)効率化
- 23/18*100=128%(28%改善)
- 治験薬の1回の製造を1000万とすると280万円の有効活用
治験薬の有効期限が十分ある場合、または治療期間が短い場合などは大きなメリットにはなりづらいかもしれません。
一方、海外から輸入している治験薬の場合など実際の有効期限より治験薬を使用できる期間が短くなっている場合、治験薬自体の有効期限自体が短い場合、治療期間が長い場合などはその効果が顕著に表れます。ビジット単位での配送・交付を検討してみてはいかがでしょうか。
