これまでに、Digital Data Flow(DDF)のコンセプトや、それを支えるUSDM、さらに規制当局側の取り組みであるFDA PRISMについて紹介してきました。(過去の記事はこちらからお読みいただけます)

今回は、これらのコンセプトを実際のツールでどのように実装できるのか、OpenStudyBuilderとOracle Clinical Oneを組み合わせたユースケースを紹介します。

OpenStudyBuilder(OSB)は、CDISCおよびTransCelerateが推進するUSDMをベースとしたStudy Designのためのツールで、Novo Nordisk社がファンドを立ち上げ、GitHub上で無償で公開されています。ユーザーは、OSB上で臨床試験のアーム構成、Visitスケジュール、アクティビティ、評価項目などを、構造化されたメタデータとして定義することができます。従来のようにプロトコール文書を起点とするのではなく、データとして試験を設計するアプローチが特徴です。

一方、Oracle Clinical Oneは、EDC、RTSMを統合した臨床試験実行プラットフォームであり、試験のセットアップからデータ収集、運用までを一貫して支援します。この2つを組み合わせることで、Digital Data Flowの考え方を実際の業務に適用することが可能になります。この連携については、OSBをOracle Clinical Oneに統合するProof of Conceptの動画が公開されています。

Intelligent Study Build – Oracle integration with OpenStudyBuilder

具体的なフローは以下の通りです。

  1. OSBで試験設計を作成(USDM形式)
  2. 試験デザインメタデータをエクスポート
  3. Oracle Clinical Oneにインポート
  4. EDCフォーム、Visitスケジュール、試験構造を自動生成

このプロセスにより、従来は手作業で行っていたEDC/RTSMの試験設計作業を大幅に自動化することが可能になります。

例えば、従来のプロセスでは、

  • (担当者Aが)プロトコール文書を読み込んで仕様書を作成する
  • (担当者Bが)仕様書上のVisitスケジュールを解釈してEDC上で手動で画面を設計する
  • (担当者Cが)設計内容のレビューと修正をする

といった人による複数のステップが必要でした。

これに対し、OSBとOracle Clinical Oneの付属ツールであるAutomated Study Builderを介してOracle Clinical Oneとデータ連携することで、

  • (担当者が)OSB上で試験デザインをメタデータとして定義する
  • 自動的にEDCがセットアップされる

こととなり、試験セットアップのリードタイムを大幅に短縮することが可能となります。

このアプローチのもう一つの重要な利点は、一貫性(Consistency)の確保です。試験設計の情報が単一のデータソースから各システムへ展開されるため、システム間での不整合を防ぐことができます。このように、OSBとOracle Clinical Oneの連携は、Digital Data Flowの「Write Once, Read Many」という理念を実際の業務レベルで実現する具体例と言えます。

EDC、eCOA、RTSMやCTMSだけでなく、ほぼすべての臨床試験システムや臨床試験関連文書が多かれ少なかれプロトコールの情報を引用して作成されています。このDigital Data Flowの考え方を拡張していくと、全ての臨床試験システムや臨床試験関連文書を一貫性を確保しながら作成、メンテナンスしていくことができるようになります。

さらに言うと、臨床試験関連文書についてはプロトコールと同様に構造化することで人が読める「文書形式」であることすら必要でなくなることも想定されます。臨床試験関連文書はPDFなどの可読形式にする必要はなく、構造化されたXMLやJSONなどのファイルだけで業務が完結し、必要な人だけがPDFなどの可読形式に変換して内容を確認するという世の中になっていくかもしれません。

図. Digital Protocolが臨床試験全体のEnd to End自動化を可能にする

臨床試験プロトコールのデジタル化は、単なる業務の効率化にとどまらず、臨床試験そのもののあり方を変えつつあります。OSBとOracle Clinical Oneの組み合わせは、その変化を現実の業務に落とし込むための重要なステップと言えるでしょう。

次回は、AIを活用した次世代アプローチである Protocol Intelligence について紹介します。