これまで、Digital Data Flow(DDF)およびUSDMを中心に、臨床試験におけるDigital ProtocolとEDC、eCOA、RTSM、CTMSなどの他システムとのデータ連携と自動化の可能性について紹介してきました。(これまでの記事はこちらからお読みいただだけます。)
こうしたDigital Protocolに関する取り組みは、製薬企業やベンダー側だけでなく、規制当局においても重要なテーマとなっています。その代表的なユースケースが、FDAのPRISMプロジェクトです。
Project PRISM(precisionFDA Regulatory Information Service Module)は、米国FDAが推進する規制デジタルトランスフォーメーションの実証プロジェクトであり、クラウド基盤であるprecisionFDAを活用して、申請者と規制当局の新しい協働モデルを検証することを目的としています1。
従来の文書ベースのレビューでは、規制当局側の各レビュー担当者(Reviewer)はプロトコール文書全体を確認しながら、自身の専門領域に関連する情報を見つけて抽出する必要がありました。PRISMでは、ICH M11で定義される構造化プロトコールをクラウド上にデータとして管理し、FDAだけでなくEMAやPMDAを含む他の規制当局側でもレビュー担当者の役割に応じて必要な情報のみを抽出・集約することが可能になる2というコンセプトです。
例えば、
- Safety Reviewerの場合:安全性に関連する評価項目、副作用関連情報、モニタリング計画などを集約したビュー
- PK(薬物動態)Reviewerの場合:PKサンプリングスケジュール、解析計画、バイオアナリティクス関連情報などを集約したビュー
といった形で、役割別に最適化されたレビュー画面を提供することが可能になります。
図. PRISM Use Case:M11準拠eProtocolのクラウド上でのレビューイメージ

図. Safety担当者用のレビュー画面

これにより、レビュー担当者は膨大な文書を読み込む必要がなくなり、必要な情報に簡単にアクセスできるため、レビュー効率の大幅な向上が期待されます。また、レビューの抜け漏れや解釈のばらつきを低減する効果もあると期待されています。これはまさに、これまで紹介してきたDigital Data Flowの考え方を、規制当局側にまで拡張したものと言えます。
PRISMは現在もPoC段階にありますが、この取り組みは今後の規制プロセスの在り方に大きな影響を与えると考えられています。特に、クラウド環境ベースのレビューや構造化データの活用は、規制当局毎の重複した投資を省きつつ、個別の規制当局、担当者の要望に応えることができる将来的に標準的なアプローチとなる可能性があります。
臨床試験プロトコールのデジタル化・構造化は、単に企業側の効率化にとどまらず、規制当局側とのインタラクションを含む臨床試験のあり方そのものを変革しつつあります。PRISMはその変化を象徴する重要な取り組みの一つと言えるでしょう。
次回は、OpenStudyBuilderとOracle Clinical Oneを活用した、より実践的なDigital Data Flowのユースケースについて紹介します。
参考URL
- ICH M11 Clinical electronic Structure Harmonized Protocol (CeSHarP) and CDISC: Making the Electronic Protocol a reality. Presented by Peter Van Reusel, Chief Standards Officer, CDISC. https://www.cdisc.org/sites/default/files/2024-04/2024%20EU%20Interchange%20-%20M11%20DDF%20%20-%20Peter%20Van%20Reusel%20-%20v1.1.pdf
- Interchange 発表資料 “ICH M11 Digital Clinical Protocol” Ron Fitzmartin, PhD, MBA, October 23, 2024. https://www.cdisc.org/sites/default/files/2024-11/Fitzmartin_CDISC_M11%20Protocol_2024_0.pdf
