金融機関における「人的資本」の重要性とは?求められる背景と動向

2023年3月より有価証券報告書での人的資本開示のスタートにより、これまでになく人的資本経営の関心が高まっています。金融機関にとってこの「人的資本」という考え方はどのような意味を持つのでしょうか。

従来から「金融機関は人材が資本である」というようなことは度々言われてきました。工場を持たず、プロダクト生産を行わない金融機関は、文字通りの資本と人材を核として経営を行ってきました。日本では、大学生の就職活動の人気上位に常に金融機関はランキングされ、優秀な人材を確保してきました。そのため、金融機関は人的資本経営との相性の良い産業と思われています。

しかしながら、人材を資本として開示することについて、他の産業よりリードしていたかというと疑問です。確かに、「資本」を開示することに関しては、国際的な自己資本規制もあって、他の産業よりも詳細な開示を余儀なくされてきました。しかし、人材に関しては、国際的な経費率の比較であるCost to Income Ratioによってまとめてコストとしてのみ計測されてきました。その結果、人材を含む経費率の低減を目指すという管理会計の方向以外に、人的資本で定義される価値やESGとの関連性を提示することはできてこなかったというのが現状です。

金融機関は、今回の非財務情報の開示という背景だけでなく、人的資本に向き合わなければいけない理由があります。

①DX人材の育成・獲得

デジタル化を加速させるための人材をどのように獲得・育成して価値を引き出していくのか、すべての金融機関共通のチャレンジです。

②ビジネスポートフォリオの変化

金利上昇、インフレ、サプライチェーンの調整、グローバル化の後退を受け、金融機関は自身のビジネスポートフォリオの見直しを図っています。このビジネスミックス改革、ポートフォリオの変化に対応する人材獲得・配置も重要です。

③将来のワークフォースの変化

パンデミックによる在宅ワークは金融機関にとって大きなチャレンジでした。今後も多様性の確保、エコシステムによる協業、リモートワーク、専門職の充実等、ワークフォースの変化は続いていきます。

④ESGアドバイザーとしての金融機関

金融機関は、自身のESGを開示すればよいという立場だけではありません。融資、資金を通じて企業のガバナンス、多様性のある取締役会構成など、アドバイザーとして顧客である企業のESGの取り組みをサポートする立場にあります。そのため金融機関は率先して人的資本の在り方を提示する必要があります。

先進事例にみる人的資本情報開示の実践

オラクルはOracle HCM Cloudを通じて金融機関の人的資本価値向上をサポートしています。日本オラクルは1月31日に実施したメディ向け説明会で、人的資本経営についての「As is-To beギャップの定量的把握」、「従業員エンゲージメントの向上」、「リスキリング・人材育成」の3点についての方針を提示いたしました。今回は、この観点からJPモルガンチェース(JPMC)の開示資料を参考に、人的資本経営の可能性について共有したいと思います。

JPMC Fig.
JP Morgan Chace & Co. “2021 ENVIRONMENTAL SOCIAL & GOVERNANCE REPORT”

 

上記は“2021 ENVIRONMENTAL SOCIAL & GOVERNANCE REPORT: DIVERSITY, EQUITY & INCLUSION AND HUMAN CAPITAL”からの”Workforce Composition(人員構成)”データです(資料P.6)。「役員やエグゼクティブのジェンダー比率、人種比率、その他多様性」に関するデータがとても分かりやすいグラフで提示されます。このような細かいデータがグラフで一覧提示できていることに「人的資本の開示」に関しての高い生産性を感じることができます。そして、なによりも、このグラフのベースを支えているのが「As is-To beギャップの定量的把握」です。つまりデータによる裏付けがあることが理解できます。

更に、P.11“Human Capital”の中に“2021 Experienced Talent Hiring Highlights”のデータを見てみましょう。ここにきて皆様は驚くべきデータに出会うことになります。なんと「犯罪歴のある人の採用率(our new hires in the U.S. have criminal histories」)「大卒資格問わない採用率(experienced hires did not require a bachelor’s degree)」のデータが提示されているからです。同じことが日本の金融機関にも可能なのでしょうか?これは、金融機関のビジネスの方向性に対して、採用すべき人材の可視化(ギャップ把握)、どのような手法で育成すべきか(リスキリング)、および自社文化との調和(エンゲージメント)を図っていくのかという人的資本経営戦略がベースにあるからこそ、見えてくる可能性です。

人的資本の価値向上への挑戦:JPモルガンチェースとオラクルの取り組み

金融機関における人的資本の在り方はまだまだ手探り状態です。JPMCはオラクルとのHCM Cloudパートナーシップを通して、人的資本の価値を上げようとチャレンジしています。最後にその一つである“Pay me Now”というサービスを紹介します。

銀行内のミーティングにて「会社として、低賃金の従業員の経済的安定性を高めるためにできることはないか」との意見が出て、「短期貸付制度の過剰利用の見直し」と共に、「pay me now」という給与即日(1日や週など)払いのサービス提供するアイディアを発案し、オラクルにこの機能を実装するよう要求したそうです。オラクルはJPMCのパートナーシップの下で、HCM Cloudにこの機能を実装することを決めました。このような取り組みからも私達は人的資本の価値向上の可能性を学ぶことができます。

 

オラクルは今後も金融機関における人的資本経営への取り組みをサポートし続けます。皆様からもぜひ良いアイディアを共有いただければと思います。

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オラクルが語る、金融業界の新潮流シリーズ 第1回「ESGを加速させるサプライチェーンファイナンスとオラクルの取り組み」