2023年の現在、金融機関にとってESGがメインストリームであることを疑う人はいません。トランジションファイナンス、グリーンボンド、グリーンレンディング等、ESGへの金融機関のファイナンスは増加する一方です。2021年7月に発行された第5回グローバル・サステナブル投資レビューでは、2018年から2020年にかけて5つの主要な市場において、世界のサステナブル投資が15%増加して35.3兆ドルに達したことが分かりました*1。
中でもESGと関連したサプライチェーン・ファイナンスが存在感を高めています。マッキンゼーのレポートによると、2019年から2024年までサプライチェーン・ファイナンスは年平均二桁で成長すると予測されています*2。
今日、大企業は急速にサプライチェーンの再構築に動いています。ヨーロッパにおける戦争、グローバル化の後退と地政学、更にCovid-19などの問題がサプライチェーンを寸断し、レジリエンスのための見直しが続いています。ここに更に投資家からのESGのプレッシャーがあります。サプライチェーン全体での炭素排出の削減、再生エネルギーへの移行のみならず、人権侵害、スキャンダルなどのリスクにさらす可能性があるからです。
こうした大企業のサプライチェーンの再構築、ESGの取り組みに対して、サプライチェーン・ファイナンスの貢献は重要です。特にサプライチェーンのエコシステムの最深層にある小規模サプライヤーが必要資金にアクセスできることは、サプライチェーン全体のサステナビリティに大きな影響を与えます。これまで小規模サプライヤーの健全性を心配する必要がありました。小規模サプライヤーであっても生産ライン全体には影響を与え、問題が起こるとライン自体が停止する可能性さえありました。このような小規模サプライヤーは、自身の信用力だけでは必要な資金を賄うことが難しく、最上位のバイヤーの強力な信用格付けと借入能力との関連性で資金調達にアクセスできるようになります。そして現在、大企業がサプライチェーンにおけるESGを追求し始め、大企業はエコスステム全体に対して透明性、監査、評価、レポートを求めるようになり、これが貸し手の金融機関にとってより資金提供をしやすくなることに繋がります。
このようなESGとサプライチェーンの融合のアイディアは、既に現実のものとして動き出しています。国内においては、みずほ銀行が昨年5月に邦銀初の「サステナブル・サプライチェーン・ファイナンス(SSCF)」の取扱いを発表*3、海外においてもドイツのシューズメーカーであるPUMAはサステナブル・サプライチェーン・ファイナンスプログラムを開始してから1年以内に、高いESGスコアを達成したサプライヤーの15%に対して1億ドルの資金調達コストを削減したと報告されています*4。
さて、このESGへのサプライチェーン・ファイナンスですが、まだ大きな課題も含んでいます。まず第一に、貸し手としての金融機関は、どのようにサプライチェーンにおけるESGデータを正確に入手できるのでしょうか。投資家は「グリーンウオッシュ」を大変気にしており、みせかけのESGデータはリスクを孕んでいます。また、金融機関はサプライチェーン・ファイナンスをスムースに提供できるケイパビリティを持ち合わせているのでしょうか。デジタル時代にふさわしい、顧客と金融機関のデジタル連携、金融機関内のフロントからバックまでのSTPなどは準備できているのでしょうか。
このような課題に対して、オラクルは金融機関とパートナーシップを組み、協業することで解決しようと取り組んでいます。
一つ目は、「正確なESGデータの取得」です。現在進んでいる取り組みとしてご紹介したいのは、金融機関と大企業のERPを連携し、サプライチェーンのデータを取得し、そのデータに基づいてファイナンスを行うという「ERPへのエンベデットファイナンス」という手法です。オラクルでは、サプライチェーンに対してOracle ERP Cloud SCMを提供しています。最近のIDCがオラクルの顧客を対象に実施した調査によれば、クラウドERPを導入に至った要因として、サステナビリティと気候変動の観点を挙げた企業が60%に達しています。さらにサステナビリティを実現する過程で、60%の企業がクラウドERPによって、「サプライチェーンおよび全体的な事業運営におけるロジスティクスの効率化」のインパクトがあったと回答しています*5。
このように、大企業が保持する構造化され再利用可能なESG関連のサプライチェーン・デジタルデータが、企業側のクラウドERPに今後蓄積されるようになります。もちろん、ESG以外にもそもそものファイナンスのための評価としての「売掛金、買掛金」も重要なデータです。金融機関はこの企業のクラウドERPと直接連携することにより、透明性の高いデータを取得し、監査、評価、審査、レポートを行いファイナンスへと繋げていくことが可能になっていきます。

正確なESGのデジタルデータを入手して、それを評価していくには、金融機関内のサプライチェーン・ファイナンス・システムが高度にデジタル化されている必要があります。しかしながら、ICC Global Surveyによると、グローバルの銀行の30%以上が、顧客を支援するための専用のサプライチェーン・ファイナンス・プラットフォームをまだ持っていないことが判明しています*6。

このギャップを埋め、顧客の資金要求に早急に答えるために、オラクルは金融機関との協業により「Oracle Banking Supply Chain Finance Cloud Service」を開発しました。APIと完全なデジタルプロセス、AI、機械学習を備えたインダストリー特化型クラウドのSaaSです。APIにより顧客のクラウドERPや自社内のコアシステムとも連携が可能になり、デジタル化を促進します。またサプライチェーンの階層の深い深層モデルにも対応し、Tier1サプライヤーだけでなく小規模サプライヤーも可視化していきます。ファイナンスオファーにはファクタリング機能も含まれており、ファクタリングに追加のベンダーは必要ありません。
このようにデジタル化されたサプライチェーン・ファイナンスの提供により、金融機関と企業がESGを加速させていくことをオラクルは今後も一層支援していきます。
出典:
*1 Global Sustainable Investment Alliance “Global Sustainable Investment Review 2020″(2021年7月発行、日本語訳NPO法人日本サステナブル投資フォーラム(JSIF))
*2 McKinsey & Company “The 2020 McKinsey Global Payments Report; Supply-chain finance: A case of convergent evolution?”(2020年10月)
*3 みずほ銀行プレス発表 “邦銀初の「サステナブルサプライチェーンファイナンス(SSCF)」 の取扱開始について”(2022 年 5 月 9 日)
*4 PUMA EMPLOYEE MAGAZINE “PUMA’S FINANCING PROGRAM FOR SUPPLIERS WINS INNOVATION AWARD December 14, 2016”
*5 IDC “企業のサステナビリティと ESG 目標の達 成に貢献するクラウド ERP”(2022年4月)
*6 ICC “2020 ICC Global Survey on Trade Finance: Securing future growth”
関連ページ:
Oracle Financial Services Blog “Is supply chain finance gaining traction over documentary trade?”