2027年3月より段階的な適用が予定されているSSBJ基準の開示をきっかけとし、財務・非財務情報の開示への対応だけでなく、その先のデータドリブンなESG経営/サステナビリティ経営による企業価値向上へと繋げていただくために、本セミナーでは「コーポレート・レジリエンス強化のための財務×非財務データの活用とAIによる業務高度化」をテーマに変革を前に進めるための成功要因や考慮すべき点などについて講師の方々からお話いただくと共に、パネルディスカッションを通じて理解を深めました。
早稲田大学 商学学術院教授 大鹿先生から「未財務情報の活用による企業価値向上を分かつもの」について実証分析結果も踏まえて具体的に解説いただきました。
海外事例講演ではサステナビリティ先進国であるドイツのAIDA Cruises様より財務とESG指標を統合した経営の舵取りのお取組みをご紹介いただき、イベント協力いただきました合同会社デロイト トーマツ様からは、「ビジネスとサステナビリティの“トレード・オン”実現のための要諦」を具体例を示しながら非常に実践的にご解説、弊社からはCloud EPMがデータドリブンESG経営をいかにして支えるをご紹介しました。

■セッション1:非財務情報開示の質的転換:制度開示要請への対応から企業価値向上のための活用へ

講師:早稲田大学 商学学術院教授 博士(商学) 早稲田大学 大鹿 智基 氏

非財務(未財務)情報開示に対する需要の背景

  • 財務情報だけでは企業価値評価のための将来業績予測ができないことから、株式投資家にとって財務情報の有用性/重要性が低下し、補完する情報として将来の財務業績につながっていく指標としての非財務(未財務)情報の重要性が高まっている

開示疲れか価値創造か

  • 非財務情報開示に関する経緯の紹介を通じ、開示の拡充傾向は進行する展望を示した
  • 一方で開示に対する反対や懸念があることに触れ、企業価値との関連性の実証分析結果を基に温室効果ガス排出量、将来の環境対策活動へのコミットメント、租税回避の程度が小さいなど非財務情報と企業価値との間に相関性があることを例示し、その意味として将来CFや利益の期待値が高い点と、短期的費用の削減のみではなく評価対象が長期的な視点で考える点の重要性であると締めくくった

‐企業価値向上の享受を分かつものとは

  • 開示のための開示にしない:非財務情報と企業価値との統合(ストーリー作り)を前提としたマネジメント実践、チェックリスト型開示やボイラープレート型開示を回避する
  • 特定の部署だけの担当にしない:経理・財務と経営企画との協働と共に、全社への意識浸透のためのマネジメント層の旗振りが前提

■セッション2:持続可能な価値創造への航路:AIDAクルーズが急激に変化する世界で財務とESGを統合する方法

ー講師:AIDA Cruises Head of Financial Planning & Analysis, Marcel Gnoth 氏

パンデミックや地域紛争などが事業に及ぼす影響と共に、サステナブル経営が求められる環境下における持続的価値創造と財務とESGを統合した経営の舵取りの取組みが紹介された

オンプレミスからCloud EPMへ、AIDA Planning 2.0の目的

  • ESGを“報告”や“コンプライアンス”だけで終わらせず、日々の経営判断に組込み、実際の企業価値につなげる
  • システムの柔軟性と性能を上げ、データ連携と自動化を進め、シナリオ分析など業務の高度化を図る

‐測れるものは舵取りできる

  • 財務と同じレベルの計画・予測・レポーティングプロセスをESGでも実装
  • 月次で管理するために、E・S・Gの視点を網羅した11のコアKPIへの集中+重要度、優先度等に応じた入替えのための拡張KPI
  • “効く仕組み”にするためにKPIとインセンティブを連動
  • KPI設計はトップダウンだけでなく、組織全体の納得感の醸成が重要

変革を前に進めるための成功要因とは

  • CFOが主導したプロジェクト推進、現実的で透明性のあるロードマップの共有、ビジネス成果と連動したKPIの優先順位付け、そしてPDCAサイクルを回すためのテクノロジーを挙げ、これらが揃うことで報告のためではなく、経営を動かすKPIが作れ、変革を前に進められたと締めくくった

■セッション3:持続的な企業価値創造を支えるサステナビリティデータ活用の未来像

ー講師:合同会社デロイト トーマツ Finance Transformationユニット マネージングディレクター 森田 寛之 氏

形式要件から、より本質を求める動きへ

  • 規制対応が中心であったサステナビリティは企業価値創造のドライバーへ:ISSB/SSBJによる「社会的解決」から「投資家目線」へシフト

ビジネスとサステナビリティの“トレード・オン”実現のための要諦

  • ビジネス部門と推進部門双方の捉える“時間軸”と“実現したい効果”の乖離により、トレード・オフの関係に陥っている企業が多いが、目指すところは同じく”企業価値の向上“
  • 3つの視点(短期やミクロな虫の目、中長期でマクロな鳥の目、短~長期トレンドの魚の目)を踏まえたトレード・オン施策の牽引が重要

ビジネス部門にとって納得感のある接合点を見つける

  • 例えばGHG排出量が何に紐づいているのか(販売だと返品率や返品のための活動等)を解釈・紐解いていくことで、プロセス指標と成果指標の間で財務・非財務の繋がりがあるところを探して、サステナビリティだけでなくビジネス側にもメリットのある接合点を見出す

事業・組織への浸透のための処方箋

  • 財務・非財務指標の一元的な管理と活動や結果繋がりの可視化
  • 評価対象・報酬種別・財務/非財務のバランスを踏まえた指標設定
  • 財務・非財務情報を統合して活用し、未財務を財務に昇華させ、企業価値の向上に結び付けCVO的な役割が必要、と締めくくった

■セッション4:Oracle Cloud EPM for Sustainability データドリブンESG経営の実現ソリューション

ー講師:日本オラクル株式会社 クラウド・アプリケーション事業統括 ソリューションエンジニアリング本部 小室 達弘

-ESG経営を支える仕組みの必要性とソリューション構成

  • 2026~2028は規制シフトから価値創造への転換点とし、情報開示・情報活用/規制対応・企業価値向上の視点から外部環境変化とそれらに対しお客様が置かれている状況に応じた打ち手を整理・解説
  • ソースデータとしてのERP/SCM/HCMや、財務×非財務を統合した経営管理基盤であるEPM、データ一元化のための自動化・統合分析基盤としてのCloudプラットフォームがあり、網羅性と段階的な拡張が可能であることを紹介

Oracle EPM for Sustainabilityの概要

  • データ収集~炭素排出量計算~予実管理や予測~分析・レポートまでの全てのプロセスを支援する包括的な機能群
  • GHGプロトコルを核にした次元やデータ項目、CSRD、GRI他のフレームワークへの対応などの専用機能を有し、監査・認証に耐えうるデータの信頼性・品質・追跡性をもった”Single Source of Truth”

デモによる機能説明

  • 排出量データや変換計数のデータ連携やユーザによる入力、排出量計算、社内や各種フレームワークに対応したレポーティングの業務の流れに沿って、概況ダッシュボードから各種項目へのドリルダウン分析、AIによる異常値検知と詳細内容の生成AIによるインサイトの提示、統計手法を用いた予測などの機能が紹介された

■セッション5:パネルディスカッション:企業価値創出に向けたコーポレート・レジリエンス強化のポイントとは

ーモデレーター:一般社団法人サステナビリティ経営研究所 代表理事 冨田 秀実 氏
パネリスト:早稲田大学 大鹿先生、エア・ウォーター株式会社 上席執行役員 AI・DX推進室長 秋田 正倫 氏、合同会社デロイト トーマツ 森田 氏

ご参加者の方々から事前にご回答いただいたアンケートを基に3つのテーマから理解を深めました

‐テーマ1:継続的な価値創出を実現するために、制度設計・ガバナンス構造・PDCAサイクルはどのようにあるべきか?

  • 大鹿氏
    • 「開示のための開示」ではなく「自社の企業価値創造」へ資する情報とするために、非財務情報の各項目が自社の企業価値向上へと繋がるまでのストーリーを考えることが肝要
    • チェック・ボックス型の方法で開示の良し悪しを判断するようなベンダーもいなくはないため、自社の企業価値向上にはあまり関連のない非財務情報については、最低限のコスト・労力での開示を行うことが最善と考える
    • 組織全体で取り組むために、マネジメント層の関与が不可欠。そのためにはマネジメント層に「腹落ち」してもらうことが必要
    •  
  • 秋田氏
    • 経営企画を管掌し統合報告書の制作に携わった際、開示項目は一定の枠組みの中で整理されているため、自社らしさを伝えるには、価値創造の背景をストーリーとして表現する重要性を再認識した
  • 森田氏
    • 例えばROIC経営でもBSの改善に資するものを現場の活動KPIとして翻訳(製造現場のL/T短縮が資産の効率性に直結する)してあげる、のが重要だったと認識。サステナビリティもこれと似ている。
    • サステナビリティ推進、FP&A部門が事業部門と一緒に、マテリアリティから導出された経営指標やサステナビリティ目標をブレイクダウンして事業に落とし込む継続的な活動が必要
    • 同時に活動を後押しするための評価や効率的に運用するためのツールなどの武器を与えてあげることも重要

‐テーマ2:財務情報と非財務情報(サステナビリティ指標)のデータ統合は、どこまで進むと考えられるか?

  • 秋田氏
    • 当社グループは約200社のグループ会社が多様な事業を展開しており、現状では情報も含め分断している点も少なくない。今後一元管理を今後進めていく。
    • 投資家との対話において、非財務情報がどう評価に結び付いているのか十分な手ごたえを得られていない。評価との関係性を説明できるデータや裏付けの構築が重要
  • 森田氏
    • 財務と非財務の情報を一元管理し、関係性などを分析できる状態にしておくことが重要
    • 過去データに基づくトレードオンの相関関係のトラッキングや、事業ポートフォリオを変えた時にトレードオンの状態が継続するか、といったことを分析・将来予測も含めデータ活用できるようにしておくこと必要があり、そのためにはデータ基盤や経営管理ツールによる支援が必要、人手だけでは難しい
  • 大鹿氏
    • AIDA事例講演や森田様の講演にもあった結節点としてのKPI策定に関連した取り組みとして、バランススコアカードをベースにサステナビリティの要素を入れたSBSC作成の取組みを紹介
    • 指標と指標の関連性のある適切なKPI策定の上でPDCAサイクルをしっかり回すことが、データ間の結合やストーリーの繋がりを考える上で重要なポイント

‐テーマ3: AIをサステナビリティ領域(開示業務、経営管理)にどのように活用すべきか?

  • 大鹿氏
    • 非財務情報を用いた研究という観点からとして、コーポレートガバナンス(CGコードにおける開示における説明内容を“言い訳型”と“熟慮型”の分類へのAI活用を例示した。信頼性の観点から目視確認はしているが、ある程度判別ができる
      ということは投資家も同じことができるので、ボイラープレート型や言い訳型の開示は見抜かれているということ視点に発行者側も立つ必要がある
    • 組織全体で取り組むために、マネジメント層の関与が不可欠。そのためにはマネジメント層に「腹落ち」してもらうことが必要
  • 秋田氏
    • グループ各社から集まってくるレポートの内容理解や、特徴を抽出と言ったプロセスにAIを活用している。今後はデータの裏付けまでAIが取ってきてくれるような世界になると想像
    • 企業としての透明性や、社員のロイアリティ向上に向けAIと共に働く姿を模索していきたい
  • 森田氏
    • データ収集~開示のプロセスと、経営管理や内部の意思決定の大きく2つの方向性から以下のポイントを例示した
    • 必要なデータ収集や、毎年変わる排出ガス係数などのデータ取得など収集・集計・加工業務での工数を削減や業務効率向上への貢献
    • 保証の観点から算出した値のエラー検知や、分析や示唆の導出、文章ドラフトの作成による意思決定の支援への活用

規制対応や義務的対応の延長としてではなく、企業価値向上ストーリーと一体化させた取組みとし、どの指標が経営や財務に貢献するのかを捉え意思決定に活かしていくことで、非財務(未財務)情報を本質的な企業力強化の武器として活用をご検討される一助になれば幸いです。