資格、実機操作、実務経験で広げるDBAの可能性
クラウドの活用が広がるなか、Oracle Databaseを扱ってきたDBAの経験は、どのように生かせるのでしょうか。
クラウドでは、リソース作成のための定型的な操作が自動化・簡素化されています。一方で、性能、可用性、バックアップ、アクセス制御、障害対応といった、DBAが培ってきた知識の重要性は変わりません。DBAがクラウドへ活動領域を広げる方法の一つが、データベースで培った知識を、ネットワーク、セキュリティ、監視、運用を含むシステム全体の設計に生かすことです。
前編では、Oracle Databaseを軸にキャリアを築いてきた株式会社第一コンピュータリソースの西尾孝之氏が、Oracle Cloud Infrastructure(以下、OCI)、マルチクラウド、AIへと活動領域を広げてきた歩みを紹介しました。
後編では、西尾氏の経験をもとに、Oracle Databaseの専門性を周辺領域へ広げ、資格、実機操作、実務経験を通じてクラウド設計に生かしていく学び方を伺います。

右:株式会社第一コンピュータリソース 西尾孝之氏
左:日本オラクル株式会社 原田哲也
周辺分野へ知識を広げる
原田:
西尾さんは、システム全体を見る必要が出てきたことをきっかけに、OCIの学習を始められました。
OCI認定資格には、Architectのほかに、Networking、Security、Observability、Cloud Opsなど、さまざまな分野のProfessionalレベルの認定資格があります。
Oracle Databaseを扱ってきたDBAがクラウドへ活動領域を広げる場合、OCI Architect AssociateとOCI Architect Professionalの次に、どの分野を学ぶことが重要だと考えていますか。
西尾:
私が特に重要だと感じているのは、Networking、Security、Observabilityの3分野です。
データベースを実際のシステムで利用するには、ネットワーク接続、アクセス制御、監視、障害対応まで考えなければなりません。クラウドでは、これらは別々の問題ではなく、一つのシステムを設計するうえで密接に関係しています。
OCI Networking Professionalの認定試験は、本当に難しかったです。構成図や長い要件を読み、通信経路や必要な設定を頭の中で整理する必要があり、「これこそProfessionalレベルの認定試験だ」と感じました。
原田:
OCI Observability Professionalについては、どのような印象を持ちましたか。
西尾:
最初は、何を学ぶ認定資格なのかよく分からず、敬遠していました。
ところが学んでみると、モニタリング、ログ、運用管理など、日常的に使っている機能が多く含まれていました。「これもObservabilityの一部だったのか」と分かり、運用・保守だけでなく、設計段階から考えるべき分野だと気づきました。
原田:
OCI Architect AssociateとOCI Architect Professionalで土台となる知識を学び、そのうえで、自分の役割や案件に応じて必要な分野へ学習を広げていくということですね。
西尾:
私が初めてORACLE MASTERを取得したときにも、似た経験があります。
Oracle Database 8iの頃、最初はORACLE MASTER Silverを取得して満足していました。しかし、実際にOracle Databaseをインストールして使おうとすると、ネットワーク設定が分からず接続できませんでした。
当時の上位資格では、ネットワーク、バックアップ、チューニングの3分野を学ぶ体系となっていました。そのとき、「Oracle Databaseのコアな知識だけを持っていても、ネットワークが分からなければデータベースを使えない」と気づきました。
資格で知識を広げ、実機操作で理解を深める
原田:
認定資格の学習では、どのようなことを意識していますか。
西尾:
必ず実際の環境を操作するようにしています。
設定項目がどこにあり、どの画面から変更できるのかまで確認しています。一度でも触ったことのある機能であれば、認定試験の問題を読んだときに「あのメニューにあった機能だ」と思い出せます。
知識だけを暗記しようとすると限界がありますが、実際に操作していれば、明らかに不自然な選択肢を除外できることもあります。
原田:
実際に操作することで、「この設定をしなくても構築できたので、必須ではなくオプションだ」と判断できる場合もあります。
画面や操作手順だけでなく、設定が持つ意味や、ほかのサービスとの関係を理解することが重要ですね。
若手育成では、手順書ではなく「構成図だけ」を渡す
原田:
若手の育成でも、実際に手を動かすことを重視されていますか。
西尾:
はい。社内向けに、4日間程度のクラウド学習コースを作りました。講義よりも、実際に手を動かす演習を中心にしています。
「この構成のクラウド環境を作ってください」という課題を用意し、参加者に構築してもらいます。OCI Bastionを使う構成では、接続できずに戸惑う人もいます。しかし、そうしたトラブルを経験することで、「この構成では何が必要なのか」「実際の案件で難しいポイントは何か」といったことを理解できます。
原田:
手順書どおりに操作すれば、環境自体は作れます。しかし、本当に理解しているかを確認するには、構成図だけを渡して作ってもらう方が効果的ですね。
クラウドでは、最終的に必要な設定になっていれば、操作の順序は一つとは限りません。手順書を見なくても構築できるか、うまく動かなかったときに原因を調べられるかが重要です。
西尾:
トラブルを経験することで、初めて知るサービスもあります。
例えば、通信できない原因を調べるなかで、ネットワーク・パス・アナライザの存在に気づくことがあります。監査ログを確認し、「ここまで記録されているのか」と知ることもあります。
「通信できる」だけでは、設計したことにならない
原田:
セキュリティの観点では、通信できないケースだけでなく、意図せず通信できてしまうケースへの対応も重要です。
例えば、セキュリティ・リストとネットワーク・セキュリティ・グループの両方に許可ルールが設定されていると、片方のルールを削除しても通信できる場合があります。「どのルールによって通信が許可されているのか」を確認することは、通信できない原因を調べるより難しい場合もあります。
西尾:
若手がクラウドを試す際、とりあえずパブリックIPアドレスを付けて接続することがあります。動作確認だけなら手早いのですが、パブリックIPアドレスを付けてよいかどうかは、きちんと検討しなければなりません。
付けないのであれば、OCI Bastionなどの利用を検討する必要があります。そこまで考えて初めて、実運用に耐えられる設計になります。
原田:
単に接続できる状態を作るだけでなく、誰を、どこから、どのように接続させるのかまで考えることが、設計につながるということですね。
DBAの専門性をクラウド設計に生かす
原田:
クラウド時代になって、DBAに求められるものは変わったと思いますか。
西尾:
以前は、Oracle Databaseをインストールできる、Oracle Real Application Clusters(RAC)を構築できる、といった作業そのものに大きな技術的価値がありました。
クラウドでは、リソース作成のための定型的な操作が自動化・簡素化されています。重要なのは、どのサービスを組み合わせれば、お客様の要望を実現できるかを考えることです。
リソースを作成し、設定できるDBAは増えていると思います。しかし、セキュリティやネットワーク、運用を含め、なぜこの構成を選んだのか、ほかの選択肢と比較しながら説明できるDBAは、まだ多くないと思います。
原田:
DBAがクラウド設計にも役割を広げる場合には、どのデータベースサービスを選ぶのか、どの可用性構成にするのか、どこから接続させるのか、データをどのように守るのかを判断する力が重要になります。
複数の選択肢を比較して判断し、「今回はこの方法が適切です。理由はこうです」と説明できることが設計力ですね。
自動化によって、DBAが判断する領域が変わる
原田:
Autonomous Database(現在のAutonomous AI Database)が登場した当初、自動化が進むことで、「データベースを勉強しなくてもよい」「DBAの仕事がなくなる」と受け取られることがありました。
Oracle Databaseを扱ってきたDBAの立場から、Autonomous AI Databaseをどのように捉えていますか。
西尾:
Autonomous AI Databaseは、私が好きなサービスの一つです。導入のハードルが低く、比較的簡単に利用を始められます。表領域などもサービス側で管理されるため、DBAが意識する範囲は減ります。
一方で、オンプレミスからのデータ移行、ディザスタリカバリ、ネットワーク接続、セキュリティ、アプリケーションとの連携など、システム全体の観点から検討すべきことは残ります。
原田:
従来のDBA業務がそのまま残るというより、サービスに任せる領域と、DBAが判断する領域の境界が変わるということですね。
西尾:
以前、Oracle Databaseにメモリーの自動管理機能が追加されたときも、同じような変化がありました。細かく管理しなくてもよい領域が増えたのだと考えています。
細部まで制御する必要がある場合は別のサービスを選び、任せられる部分はサービスに任せる。そのうえで、DBAはサービスの選択や全体設計に集中するべきだと思います。
Oracle Databaseの専門性を、システム全体へ生かす
原田:
DBAの役割や、学ぶべき内容も変わっていくということですね。
西尾:
データベースの運用やチューニングで培った知識が不要になるわけではありません。性能、可用性、バックアップ、アクセス制御といった考え方は、クラウドでも重要です。
ただし、それらをデータベースの中だけで考えるのではなく、ネットワーク、ストレージ、監視、セキュリティ、ほかのクラウドやアプリケーションとの接続まで含めて考える必要があります。
Oracle Databaseで培ったスキルをシステム全体の設計に生かせるように、関連する領域へ知識を広げていくことが大切だと思います。
原田:
すべての分野の専門家になる必要はありませんが、周辺分野の基礎知識があれば、それぞれの専門家と会話し、連携しながらシステム全体として判断できるようになります。
DBAとしての専門性を軸に、ほかの専門家と連携できる範囲を広げていくことが重要ですね。
認定資格は、視野を広げるための手段
原田:
そういう意味で、認定資格は、自分に不足している知識を確認し、視野を広げるための手段とも言えますね。
西尾:
Web検索では、自分が探している情報だけを見がちです。一方、認定資格取得に向けた学習や体系的な研修では、これまで関心を持っていなかった機能や設計上の論点を知ることができます。
原田:
ただし、認定試験に合格することだけを目的にすると、出題範囲の外にある知識を学ばなくなる可能性もあります。
西尾:
認定資格取得に向けた学習、実機操作、実務経験を組み合わせることが大切だと思います。自分の役割や目標に合った認定資格に挑戦し、学んだ知識を自分の環境や業務で使ってみてほしいですね。
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DBAがクラウドへ活動領域を広げることは、Oracle Databaseの専門性を手放すことではありません。
性能、可用性、バックアップ、アクセス制御、障害対応など、DBAとして培った知識を、ネットワーク、セキュリティ、監視、運用へつなげていく。資格、実機操作、実務経験を重ねることで、単に設定するだけでなく、適切な構成を選び、その理由を説明できるようになります。
Oracle Databaseの専門性を軸に、クラウド設計へ役割を広げていく。西尾氏の経験は、DBAにとってのキャリアの一つの方向性を示しています。
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株式会社第一コンピュータリソース 西尾孝之氏
学生時代にOracleに出会ってから23年、Oracle一筋で業務に携わる。
Oracle ACE Pro
ORACLE MASTER Platinum DBA 2019および、Oracle Cloud Infrastructure 2025 Certified Architect Professionalをはじめ、2025年版OCI認定資格15資格を保有
※本文では読みやすさを優先し、Oracle Cloud Infrastructure認定資格の名称を一部略記しています。正式名称はOracle University Webページをご確認ください。
