専門性を起点に、OCI、マルチクラウド、AIへ
クラウドやAIの活用が広がるなか、Oracle Databaseを扱ってきた技術者の経験は、どのように生かせるのでしょうか。
Oracle Databaseを軸にキャリアを築きながら、Oracle Cloud Infrastructure(以下、OCI)の認定資格を継続的に取得し、AIを活用したデモコンテストにも挑戦している株式会社第一コンピュータリソースの西尾孝之氏にお話を伺いました。
Oracle UniversityでOCI講師を務める原田哲也との対談を、前後編でお届けします。
前編では、Oracle Databaseを起点に、クラウド、マルチクラウド、AIへと知識と活動領域を広げてきた歩みを伺います。

右:株式会社第一コンピュータリソース 西尾孝之氏
左:日本オラクル株式会社 原田哲也
OCIとの出会いは「業務上、避けて通れなかった」
原田:
ORACLE MASTER Platinum DBA 2019を取得され、Oracle ACE Proにも選出されるなど、Oracle Databaseを軸にキャリアを築いてこられた西尾さんが、OCIを学び始めたきっかけから教えてください。
西尾:
最初は、業務上の必要性がきっかけでした。当時、Oracle DatabaseやOracle WebLogic Serverなどを扱うOracleソリューショングループに所属していました。「Oracle」という名前を冠したクラウドサービスが登場したので、グループとしても扱わないわけにはいきませんでした。いわゆるOracle Cloud Infrastructure Classic(OCI Classic)の時代です。
それまではOracle Databaseを中心に仕事をしていましたが、クラウドではネットワークやインフラを含め、システム全体を見る必要があります。最初は何から手を付ければよいのか分からず、かなり苦労しました。
原田:
データベースだけでは完結しなくなったわけですね。
西尾:
クラウドでは、物理的な配線作業を伴わず、コンソール上でインフラを構築できます。そのため、最終的なシステムやサービスを理解している人が、インフラも含めて考える場面が増えました。
Oracle関連の案件では、まず私たちのチームに相談が来ることが多く、業務を通じてネットワークやセキュリティ、運用まで学ぶようになりました。
認定資格を継続して取得し、技術の変化を追う
原田:
OCI Architect AssociateやOCI Architect Professionalなどの資格を、以前のバージョンから継続して取得されていますね。
西尾:
はい。最初は「OCI Architect Associateを10年連続で取得しよう」という目標を立てました。技術の進化に、きちんと追いついていきたいと思ったからです。2018年頃から継続して取得し、OCI Architect Professionalも2021年頃から取得し始めました。
毎年学習していると、認定試験の出題範囲に新しいサービスや機能が追加され、推奨される設計も変わっていることが分かります。例えば、Oracle CloudWorldで発表されたZero Trust Packet Routing(ZPR)が、後の試験に反映されていました。
認定資格取得への取り組みを通じて、Oracleがどの機能を重視しているのか、現在のベストプラクティスは何かを確認できるのは大きいです。
原田:
クラウドは変化が速く、以前はできなかったことが可能になり、それまでの設計上の常識が変わることもあります。ソリューションを設計する立場なら、実際に採用するか否かにかかわらず新しい選択肢を知っておく必要があります。
西尾:
複数の分野を学ぼうと思った理由もそこにあります。
もともとデータベース・エンジニアとして仕事を始めたので、当初は「インスタンスを作成し、ネットワークにつながればよい」という感覚がありました。一方、インフラやセキュリティを専門とするチームは、権限や通信経路、運用設計まで非常に緻密に考えています。そこで、自分の知識が部分最適になっていたことに気づきました。
クラウドでは、データベースだけでなく、セキュリティ、ネットワーク、監視、運用を含めて設計する必要があります。OCIの認定資格体系は、自分に不足している観点を知るための道筋として役立っています。
マルチクラウドによって、Oracle AI Databaseの利用範囲が広がった
原田:
現在は、Oracle AI DatabaseをOCIだけでなく、AzureやAWSなどの環境と組み合わせて利用する選択肢も広がっています。Oracle AI Database@Azureをはじめ、アプリケーションを配置するクラウドとOracle Databaseサービスを近接させる構成も選べるようになりました。
西尾さんは、マルチクラウド関連の学習にも早い段階で取り組まれていますね。
西尾:
Oracle AI Database@Azureに関係する案件に携わる機会があり、それをきっかけにマルチクラウドを改めて学びました。
Azureのポータルから操作すると、初めてでも比較的スムーズにAutonomous AI Databaseをプロビジョニングできました。ただし、細かく見ていくと、OCI側のコンソールで確認・設定する部分や、OCIの知識がなければ判断しにくい部分もあります。
Azureだけ、OCIだけを見るのではなく、両方の責任分界やサービスの関係を理解することで、より適切に設計できると感じました。
原田:
マルチクラウドでは、どちらか一方のクラウドだけを理解していればよいわけではありません。
西尾:
最近は、「アプリケーションは別のクラウドに置き、データベースはOCIのサービスを使いたい」という相談もあります。Oracle AI Databaseをコア領域として持ちながら、ほかのクラウドやアプリケーション側の考え方を理解することで、自分の専門性を生かせる場面が広がっていると感じます。
AI活用では、データをどこに置き、どう使える状態にするかが重要
原田:
お客様は、将来のAI活用まで見据えてOracle AI Databaseを選択しているのでしょうか。
西尾:
最初からAI活用まで具体的に考えているお客様は、まだ多くないと思います。基幹システムの更改では、Oracle Databaseを継続するのか、ほかのデータベースやクラウドサービスを採用するのか、といった検討が行われます。
そのなかでOracle AI Databaseは、リレーショナルデータに加えて、AI Vector Searchなどの機能を利用できます。既存の業務データとAI向けのデータを同じデータ基盤で扱えるため、データの移動や複製を抑えながらAI活用を検討できます。
原田:
AIでは、モデルや回答だけでなく、データをどこに置き、どのように管理するかが重要になります。データの移動や複製が増えるほど、運用やセキュリティの管理点も増えます。
西尾:
AIを活用するとき、業務データを外部サービスへ渡すのか、自社の管理下に置いたまま利用できるのかは重要です。
ただし、データベースの中にデータがある、というだけでなく、DBAは、AIやアプリケーションが利用できるように、データの意味、品質、権限、更新方法まで考える必要があります。
AI選手権への挑戦は「面白そうだから、まず手を挙げた」
原田:
西尾さんはOracle AI選手権で優勝し、Oracle Partner AI Demo選手権でも決勝に進出されました。参加のきっかけを教えてください。
西尾:
最初は、単純に「面白そうなイベントがある」と聞いたからです。以前、Autonomous Databaseが登場した頃にも似たイベントがあったそうですが、私は参加できませんでした。
今回は珍しい機会だと思い、まず手を挙げました。それから何を作るか考えました。
社内には、AWSやAIを熱心に学んでいる開発メンバーがいます。その人たちと一緒に取り組んだら面白いと思い、チームを作りました。私はデータベースやインフラ側を担当し、ほかのメンバーはアプリケーション開発を担当しました。
インフラを用意すると、開発メンバーがOracle APEXを使って短時間でデモ画面を作ってくれました。APEXを初めて使ったメンバーもいましたが、デモとして十分な画面が完成し、驚きました。
異なる分野のメンバーと一緒に取り組んだことで、自分の担当領域とは異なる視点を得ることができました。
AIのアウトプットではなく、インプットに注目する
原田:
デモのアイデアは、どのように決めたのでしょうか。
西尾:
メンバーからさまざまな案が出ました。例えば、お客様との打ち合わせで記入された手書きアンケートを取り込みたいという案や、コールセンターの音声をAIで処理したいという案です。話し合うなかで、どの案も「データのインプット」に関係していることに気づきました。
AIの話では、LLMにデータを渡したときにどのような回答が返るかなど、アウトプット側が注目されがちです。しかし、質の高いデータを入力しなければ、質の高い結果は得られません。
そこで、手書き文字、文書、音声など、さまざまな形式のデータを取り込む部分に着目しました。OCI Document UnderstandingやOCI Speechなどを組み合わせ、複数の入力パターンを扱えるデモにしました。
原田:
最初から利用するサービスを決めたのではなく、実現したいことから必要なサービスを探したのですね。
西尾:
そうです。「こういうことを実現したい」と考えてから、OCIで使えるサービスを探しました。
例えば、一つの音声データから話者ごとに発言を分ける機能が必要だと分かり、「OCIにもあるのではないか」と調べました。そうやって、メンバーと相談しながら作っていきました。
イベントへの参加をきっかけにAIを学び、その後、OCI Generative AI Professionalも取得しました。私の場合、認定資格を取得したことをきっかけにサービスを使うこともあれば、業務やイベントで使ったことをきっかけに認定資格を取得することもあります。
データベースの経験を、AIを支えるデータ基盤へ広げる
原田:
AI活用が広がるなかで、Oracle Databaseを扱ってきた技術者の経験は、どのように生かせるでしょうか。
西尾:
AI活用のためのDBAの役割は、従来のデータベースの管理だけというわけではありません。データの構造、品質、権限、性能、可用性を考えてきた経験は、AIに信頼できるデータを渡すための基盤設計に生かせます。
原田:
業務でAIを活用するには、使えるデータを集め、意味を付け、安全に利用できる状態にする必要がありますね。
西尾:
はい。スキーマ設計やデータの意味付けに加え、SaaSなど外部サービスとの連携、ネットワーク、セキュリティも関係します。
Oracle Databaseを扱うなかで培った知識を、データの収集、連携、保護、活用まで広げることで、AIやアプリケーションが利用できるデータ基盤の設計に生かせると思います。
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Oracle Databaseを扱ってきた経験は、データベース内部の管理だけに閉じたものではありません。データの構造や品質、権限、性能、可用性を考えてきた経験は、クラウドやAIを支えるデータ基盤の設計にもつながります。
まったく別の技術者になろうとするのではなく、これまで培った専門性を起点に、マルチクラウドやAIなど、新しい利用領域へ知識を広げていくこと。西尾氏の歩みは、Oracle Database技術者が次の領域へ進むための、一つの実践例といえるでしょう。
後編では、こうして広げた知識を実際の設計力へ変えるために、西尾氏が認定資格取得への取り組みや若手育成で重視していることを伺います。
※本文では読みやすさを優先し、Oracle Cloud Infrastructure認定資格の名称を一部略記しています。正式名称は Oracle University Web ページをご確認ください。
