(本記事は、Oracle Health Sciences Global Head, Global Customer Centre of Excellence, Srinivas Karriによる”The Future of Clinical Trials: Embracing Standardization and Automation”を翻訳したものです。

 

このブログで表明されている見解は私個人のものであり、必ずしも Oracle の見解を反映しているわけではありません。

 

急速に進化する臨床試験の世界では、標準化されたプロトコールの採用と自動化の融合により、試験デザインの設計と試験実施の方法に革命が起きています。ICHは最近、臨床試験プロトコールの普遍的な構造と核となる内容を確立することを目的としたガイドライン(ICH M11)をドラフトしました。この取り組みは、欧州医薬品庁 (EMA) の Web サイトで入手可能な文書で詳しく説明されており、ステークホルダー全体でエコシステムとして、一貫性、効率性、コンプライアンスを促進することで臨床試験プロセスを合理化することを目的としています。

 

標準化: 効率と相互運用性の鍵

ICH M11ガイドラインはプロトコールのフォーマットと電子的に情報交換するための標準化されたアプローチを提供し、Clinical Electronic Structured Harmonized Protocol (CeSHarP) テンプレートと技術仕様を紹介しています。このガイドラインでは、共通の言語とフレームワークを作成することにより、さまざまな介入研究におけるステークホルダーの多様なニーズに対応する柔軟性を維持しながら相互運用性(interoperability)とコンテンツの再利用性を可能にします。

 

標準化されたプロトコールの採用により、臨床試験プロセスのあらゆる段階で大幅な効率の向上が期待されます。プロトコールのレビューのスピードアップやプロトコール改訂の合理化、実行と相互運用性の強化までメリットは数多くあります。テクノロジープラットフォームに標準化されたプロトコールデータを取り込み、データとして出力することにより手動での入力作業を減らし、エラーを最小限に抑えることができます。これにより、試験立ち上げの期間が短縮され、プロトコール改訂がより効率的になり、規制当局への提出と評価がスピードアップされます。

 

自動化: 臨床試験のデザイン設計とデータ管理の変革

標準化の最も重要な利点の1つは、試験デザイン、構築、および規制当局への提出のためのStudy Data Tabulation Model (SDTM)データセットの生成が自動化されることです。 SDTM データセットは規制当局への提出が必須であり、正確かつ標準化されたデータフォーマットとデータ構造を作成するには、かなりの専門知識が必要です。標準化されたプロトコール内の構造化情報を活用することで、これらのデータセットに必要なメタデータをすべての関係者が利用できるようになり、データ管理担当者の作業負荷が軽減され、規制当局への提出までのデータフローが加速されます。さらに、臨床試験でのデータ収集に不可欠なeCRFの作成も自動化することができます。これにより、試験デザインと目的の整合性が確保され、セットアッププロセスが加速され、不一致やエラーが最小限に抑えられ、よりクリーンなデータとよりスムーズな審査プロセスが実現することになります。

 

リアルワールドでの実例: Oracle Clinical One を使用した Oracle Life Sciences のPOC(Proof of Concept)

先日、Oracle Life SciencesはオープンソースのメタデータリポジトリOpenStudyBuilderとOracle Clinical One Data Collectionを使用した臨床試験の自動化を実証するProof of Concept (POC) を完了しました。この取り組みでは、標準、メタデータを活用し、複数のシステムやベンダーにわたる相互運用性をサポートする完全な臨床試験の自動化を紹介しました。

 

この取り組みは、OpenStudyBuilderで設計された高血圧の臨床試験用のプロトコールの開発から始まりました。メタデータ主導のアプローチにより、eCOA(eClinical Outcome Assessment) やeConsent を含むさまざまなコンポーネントのシームレスな統合が可能になりました。生成されたメタデータを使用して試験デザインプロセスを自動化し、eCOA と eConsent を統合しました。これにより、試験デザイン段階が合理化され、プログラミングエラーが減少すると同時にデータベースロックまでのサイクルタイムが短縮されました。

 

高度なデータ収集プラットフォームであるOracle Clinical Oneは、プロトコールからメタデータを抽出して構築作業をさらに自動化しました。このメタデータを活用して、プラットフォームでフォーム、ビジット構造、論理チェックの作成を含む試験デザインを自動的に生成することができました。この自動化により、試験立ち上げのタイムラインが短縮され、データの一貫性と整合性が確保されます。

 

臨床試験の未来: 効率、コラボレーション、イノベーション

臨床試験における標準と自動化の融合は、臨床試験エコシステム全体を変革する計り知れない可能性を秘めています。プロトコールの設計から承認申請まで、あらゆる段階で効率、品質、コンプライアンスを最適化することができます。 TransCelerateによるDigital Data Flow (DDF)やClinical Data Interchange Standards Consortium (CDISC)のProtocol Representation Model (PRM)などの取り組みは、臨床試験の重要な側面を自動化することでシームレスなデータ交換を促進し、ICH M11ガイドラインをさらに補完します。

 

これらのプラクティスを採用すると、次のような多くの利点が得られます。

  1. プロセス効率: 自動化されたプロセスの採用により、結果として新しい治療法をより早く利用できるようになります。
  2. コスト効率: データ管理が強化され、イノベーションのためのリソースを投入できるようになり、結果としてコストが削減されます。
  3. データ品質: 標準化されたデータフォーマットによりデータセットの品質が向上し、試験の信頼性が向上します。
  4. コラボレーション: オープンスタンダードの採用により、スポンサー、CRO、ステークホルダー間の調整が強化されます。

 

標準化されたプロトコールと自動化の実装に関連する潜在的な課題を認識し、それに対処することは不可欠です。これらには、専門的なトレーニングの必要性、テクノロジーとインフラストラクチャへの初期投資、組織内の変化に対する潜在的な抵抗などが含まれる場合があります。

 

今後、臨床試験における標準と自動化の融合により、効率、コラボレーション、イノベーションの新時代が到来するでしょう。テクノロジーが進化し続けるにつれて、これらの導入は、より合理化され、コスト効率高く、相互接続された臨床試験エコシステムへの道を切り開き、最終的には救命治療を加速することで患者に利益をもたらすことになるでしょう。