近年、RTSM(Randomization and Trial Supply Management)が臨床試験の実施において重要な役割を果たしていることが広く認識されています。RTSMは、被験者の無作為化と治験薬のサプライチェーンを管理するために設計された包括的なシステムで、これにより、被験者の無作為割り付けや治験薬情報の管理、治験薬の再配送や在庫状況の可視化などの管理を効果的にすることが可能となります。今回はRTSMにフォーカスし、全シリーズ5回に分けてRTSMの基本的な概念から具体的な利点、今後の展望までを詳しく探っていきます。
シリーズ:RTSM(Randomization and Trial Supply Management)を探る – 臨床試験のデジタルフォーメーション
第1回 今更ですが知っていますか?IVRS、IWRS、IRTとRTSMの違い
第2回 改めて考えてみるITシステムの観点から見たTrial Supplyの重要性
第3回 動的割付はもう古い?!
第4回 RTSMのデータ連携 with EDC:構築期間をなぜ短縮できるのか?QbD (Quality by Design) をどう実現できるのか?
第5回 RTSMのデータ連携 with CTMS:QbD (Quality by Design) をどう実現できるのか?
第3回 動的割付はもう古い?!
今回、日本の臨床試験の割付手法としてよく使われている動的割付について考えてみます。
日本で使われている動的割付は、症例が登録される毎にそれまでに登録された症例のある特定の背景因子の群間の不均衡具合をチェックし、次に割り付けられる症例が不均衡具合を小さくする方向に割り付けを行う方法です。
海外ではDynamic allocation (ICH-E9)*1もしくはMinimization method*2と呼ばれます。日本ではよく使われている動的割付ですが海外ではほとんど使われておらず、使用されているのはRCT(Randomized Controlled Trial)のうち2%以下とも言われています*3。
今回は動的割付が海外で使われていない理由、そして動的割付のリスクについて考えてみたいと思います。
- 予見性
動的割付は特定の背景因子で群間をバランスさせるため、次の症例が割り付けられる際に予見性が高まります。特に小規模な試験では先行する割り付けに基づいて次の治療群を予測できる場合があります。これにより症例のバイアス(選択バイアス)が生じる可能性があります。
- 中間解析
中間解析が計画されている場合、動的割付による試験進行中の共変量の変化は問題となる可能性があります。
- 測定されていない因子による不均衡
動的割付は測定された共変量の不均衡を最小化させることができますが、測定されていないまたは未知の共変量の不均衡を最小化させる保証はありません。これにより隠れたバイアスが発生する可能性があります。
- 複雑性
動的割付は単純な無作為化よりも複雑なアルゴリズムと専用のITシステムが必要になります。
上記のポイントのうち、特に予見性については、ICH-E9では「決定論的な動的割付法は避けるべき」と記載されており利用にあたっては十分な注意が必要です。
ICH-E9に呼応する形でその後Biased Coin Toss Methodのように決定論的な動的割付を回避する手法が開発されましたが、2003年に発行されたEMEAのガイダンス*4では
「I.3. 動的割付:決定論的スキームが回避されたとしても、動的割付には非常に問題が多い。そのような方法を避けることを強く勧める。動的割付が使用されている場合、その理由は確かな臨床的および統計的根拠に基づいて正当化されるべきである」、
「II.4.動的割付:動的割付は勧めない。使用する場合、割付スキームで使用されるすべての要素を共変量として分析に含めることが不可欠である。この要件があったとしても、解析がランダム化スキームを適切に反映しているかどうかは依然として議論の余地がある」、
さらに2015年に発行されたEMAのガイダンス*5でも
「4.2.動的割付:動的割付は、予後因子の組み合わせ内のバランスを保証するものではない、決定論的なスキームは避けるべき」との注意書きがあります。
ICH-E9でも動的割付はの割付方法の選択肢の一つと記載はされているものの利用にあたっては十分注意ください。
*1 https://www.pmda.go.jp/files/000156905.pdf
*2 Scott NW, McPherson GC, Ramsay CR, Campbell MK. The method of minimization for allocation to clinical trials. a review. Control Clin Trials. 2002 Dec;23(6):662-74. doi: 10.1016/s0197-2456(02)00242-8. PMID: 12505244. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12505244/
*3 Taves DR. The use of minimization in clinical trials. Contemp Clin Trials. 2010 Mar;31(2):180-4. doi: 10.1016/j.cct.2009.12.005. Epub 2010 Jan 8. PMID: 20060500. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20060500/
*4 https://www.ema.europa.eu/en/documents/scientific-guideline/points-consider-adjustment-baseline-covariates_en.pdf
*5 https://www.ema.europa.eu/en/documents/scientific-guideline/guideline-adjustment-baseline-covariates-clinical-trials_en.pdf
