オラクルヘルスサイエンスでは毎月 Podcast The Latest Doseを配信しています。

本ブログ記事では202384日配信の【Ep. 42: Creating drugs at the speed of AI】を紹介します。

今回のトピックは最近最も議論されているAI(人口知能)と製薬のイノベーションです。

ゲストは生成AI創薬のabsciCIOChief Innovation Officer)である、アンドレアス・ブッシュ博士で、オラクルライフサイエンスのキャサリンが創薬におけるAIの活用についてインタビューしています。

 

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イントロダクション

人工知能AIは地球上で最も議論されているテクノロジーの一つです。

AIは、科学者がより良い医薬品をより早く開発するのに役立つのでしょうか?多くの人々や組織、企業が医薬品開発プロセスを改善するために努力を続けてきました。AIは製薬業界にとって革命に他なりません。202338日のある記事では、”270近くの企業がAI主導の創薬に取り組んでいると述べています。

AIは医薬品を開発し、人々にとって安全で、病気に対して望ましい効果を発揮し、実際に人への使用が承認される厳しい規制基準を満たすことができるのでしょうか?

これらについて本日ゲストのabsciCIOであるアンドレアス・ブッシュ博士に答えていただきます。アンドレアスは、サノフィ、バイエル、シャイアーを含む世界トップクラスの製薬会社で研究開発を主導してきました。アンドレアスのリーダーシップにより、ベンチスタートからFDA承認まで10以上の市販薬が誕生し、さらに数種類が後期臨床開発段階にあります。アンドレアスはドイツのヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ大学とフランクフルトで薬理学の特別教授の肩書きを持ち、薬理学の博士号も取得されています。

 

・生成 AIについて実際に知っておくべき重要なことは?

Chat GPTAIと一般人へのAIの使用における画期的なもので、今や誰もが、Chat GPTを通じてAIに何ができるかを知っています。私たちが達成しようとしているのは、AIが私たちの創薬をサポートすることです。ご存知のように、生成 AIでは、プロンプトを与える必要があります。つまり、私たちが取り組みたいメカニズムのターゲットをモデルに与える必要があるということです

 

・プロンプトやプログラムを使ったアプローチを開発し、実際に組織で使用しているのはいつ頃からですか?

absciは細胞株開発の会社としてスタートし、AIが生産的であるためには大量のデータが必要であり、一貫した高品質のデータが必要であることに気づきました。つまり、AIモデルの改善と、AIモデルに大量のデータを供給することで、モデルがどんどん良くなっていくのです。

私たちは2年以上前から抗体発現システムにAIを導入しました。進歩は実に早く、1年前には既存の抗体を最適化できる段階まで来ました。ちょうど半年前、私たちは初めて、タンパク質の構造情報をモデルに与えるだけで、抗体の構造を知らなくても、アミノ酸の結合配列を完全に作り出すことができたのです。この半年間で、私たちはこのアプローチを複数の結合領域に拡張し、すでに抗体の3つの結合領域に対応できるようになりました。私たちは、この進歩が非常に有意義で有益なものになると楽観的にみています、そして、将来の生物製剤研究において革命的なものになると信じています。

 

・素晴らしい結果を出すために、使用したデータについてもう少し詳しく教えてください。そのデータはどこから来たのでしょうか?

私達たちがしていることは、メカニズムの構造がわかったらGタンパク質共役型レセプターのような膜タンパク質を扱うと仮定して、その名前が何であれ、抗体が結合したい領域を特定することです。そしてこの領域の構造情報をモデルに与えると、モデルはAIが生成した数多くのモデルヒット、つまり結合体がどのような形であるべきかについての情報を私たちに提供します。そして私たちは実験室でこれらのヒットを生成し、その結合領域に関連する遺伝子を私たちのシステムで発現させるのです。これは微生物の発現システムでE.coliというシステムです。そして、ACE Assayと呼ばれる試験を行い結合親和性を検証します。その結果、AIの提案とAIの結果を実験的に検証することができます。そのため、私たちは予測の品質が非常に高いという安心感を持っています。それだけでなく、検証を行い、そのデータの情報を使ってモデルをさらに改善することもできるのです。

 

・どれだけのデータを作成する必要があるのか?
E.coliシステムの素晴らしい点は、複製が非常に速いことで、非常に大きなライブラリーを発現させることができます。そのライブラリーとは、やはりモデルによって提案された遺伝子です。50万から100万の結合領域からなるライブラリを簡単に発現し、その結果、12週間で300万個の結合体を測定することができ、それらの結合領域が細胞内でどの程度発現しているかも見ることができ、1週間あたり最大10億のデータポイントとタンパク質相互作用を測定することができます。

 

・生成AIがなかったら、人間がこれを行うにはどのぐらい時間がかかるのでしょうか?

本当にエキサイティングなのは、今お話したような、モデルが一定の品質のバインダーを作り出すだけでなく、多次元的な方法で最適化できるものを作り出すことだと思います。つまり、抗体を作製する従来の方法に戻れば、マウス免疫や迅速免疫、あるいはファージ・ディスプレイと呼ばれるもので、結合剤を得ることができます。しかしその結合体は、例えば結合体は得られても、親和性、溶解度、免疫原性、結合pH依存性などに影響を与えることはできません。これらのパラメーターはすべて、抗体にとって非常に重要なものです。特にこれが本当に最適化された候補であることを考えれば、画期的なことだと思います。これは単なる最初の抗体ではなく、最終的に最適化されるまでに何年もかかるものなのです。

 

・私たち業界はテクノロジーに対してイノベーターなのでしょうか?それとも少し遅れているのでしょうか。

私たちの焦点は抗体の作製です。一般的なバイオ医薬品の研究開発という文脈では、AIが対処できる側面はもっとたくさんあります。ですから、抗体の作製に関しては、私たちは最前線にいると思います。将来的には、完全なモノクローナル抗体だけでなく、他の生物製剤にも私たちの知識を広げていきたいと考えています。しかし、AIの他のアプローチも、もちろん非常に生産的です。そしてそれらはすべて、膨大なデータの存在と利用可能性に基づいて、ここ23年で本当に成長しました。

 

・費用について、どれぐらい高価なのでしょうか?どのような投資・コストを考えるべきなのでしょうか?

最終目標に目を向けるべきだと思います。私たちの目標は一度ターゲットがわかれば、ボタンをクリックするだけで最適化された抗体の外見に関する情報を得ることができることです。ボタンを1回クリックするだけで、多額の費用がかかるわけではありません。しかしこれまでは膨大な研究室での作業、膨大な反復プロセス、多くの人々の関与など多大な労力とリソースが必要で、最終的に抗体を得るまでにin vitroin vivoのデータが必要になります。それらのデータは後にも必要となるでしょう。モデルから出力された抗体を実際の疾患モデルで特徴付けるためには、もちろんコストや時間の節約が非常に大きなものです。

現在、業界のベンチマークを見ると、ターゲットから候補の抗体を得るためのコストは500万ドルから1000万ドルの範囲にあると思います。そのため、ボタンをクリックすることで迅速かつコスト効果の方法が提供されることは想像に難くありません。

 

・組織が新しい仕事の進め方を受け入れることに躊躇していること(マッキンゼーが言うところのパイロットパーガトリー(Pilot purgatory))への懸念を感じますか?どのようにしてそれを防いだり回避することができますか?

あらゆる画期的な技術がそうであるように、WinnerFast Adapter, Low adapterは存在するでしょう。私は製薬業界で20年以上研究開発に携わっており、バイエルでは研究開発、シャイアーでは研究開発の責任者を務めていました。新しいテクノロジーに懐疑的な多くの社員と接してきて、技術的なブレークスルーを適応させるのは簡単なことではありません。しかし、一度ブレークスルーが明らかになれば、それが適切なタイミングで、みんなが乗り出していくことは誰にでも分かることです。最終的に、私たちがちょうどあなたに説明した約束が本当に実現するならば、待つという選択肢はありません。AIChatGPTを通じて世界中の人々が準備をしているだけでなく、業界全体がR&Dの全体的なバリューチェーンにAIを適用し、さらに薬のマーケティング面にも熱心に取り組んでいるという点で過去の他の多くのブレークスルーよりも速く進むと思います。
したがって、
R&D組織では技術の適応に対する抵抗の可能性は常にありますが、私は私たちのアプローチがいくつかのターゲットで検証されれば、それは来年中に実現すると確認しており、業界はそれを採用する以外の選択肢はなくなります。なぜならば、マルチパラメーターに最適化されたプロファイルに基づいて成功確率が高い分子を開発できる状況になるからです。それはより速くより良く最適化されたツールであり、競争上の優位性が得られます。

 

AIが医薬品をデザインすることで、人間に医薬品を認可するために使用されている厳格な規制基準を満たすことができるのでしょうか?つまり、データパッケージが変わる可能性があるということですか?

今後5年~10年ともっと遠い将来に予想されることを区別する必要があります。私たちが提供するものは、どのような方法で提供されるにせよ、従来の低分子アプローチであろうと、従来のバイオロジクスアプローチであろうと、すべての医薬品とまったく同じ規制プロセスを経ることになります。こうした薬事規制の側面は、生成AIの経路と従来の経路から得られた経路との間に違いはないでしょう。また、システム生物学に踏み込み、潜在的な副作用やメカニズムなどに関する情報をより多く得ることができれば、規制のプロセスを通過する成功の確率は高まるでしょう。それが一つの側面です。長期的には、もちろん、規制当局も臨床開発におけるAI手法の実際の生産性を理解したいと思いますし、AI情報に基づく開発面での予測がどの程度有効であったかを確認したいと思うでしょう。そしてAIが将来の規制プロセスにも大きな影響を与えることを予想しています。

 

AIは医薬品開発のスピードアップに役立つのでしょうか?AIは私たちが見逃してきた新薬分子を特定することができるでしょうか?

はい、抗体研究に目を向けると、特に膜タンパク質、イオン・チャネル、GPCRなど、従来の方法では対処が難しかったターゲットが数多くあります。私たちは、こうした難しい薬物ターゲットにもすぐに対応できるようになり、治療が可能になると考えています。

 

AIがデザインした医薬品は人間にとって安全なのでしょうか?

はい、私の仮定は、多次元的に最適化された化合物を提供できるということであり、それはテストされるでしょう。私の仮定は、より高い安全性、あるいは一般的な安全性を予測できるということですが、現時点では、規制のプロセスにおいて安全性試験を回避する方法はありません。

 

AIがデザインした医薬品は、病気に対して望ましい効果をもたらすことができるのでしょうか?

もちろんです。しかし、まず第一に、適切なターゲットに取り組む必要があります。標的が正しいものでなければ、もしメカニズムが正しいものでなければ、他のパラメーターも素晴らしく親和性の高い最高の抗体にはなりません。正しいメカニズムから始めれば、AIが生成した抗体は非常に有用なものになるでしょう。

 

AIを活用した創薬に関する情報はどのように入手したらよいでしょうか。

特にネイチャー系の雑誌には、遺伝子AIに関する最新情報が掲載されていますし、私たちはBioArchive1時間ごとのニュースとして論文を発表しています。またAIのための会議やプラットフォームも数多くあり、参加する価値があります。

 

absci website: https://www.absci.com/

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今回の紹介は以上です。次のThe Latest DoseのPodcast紹介をお楽しみに!