経営層の納得を得られる賢いデータベース・アップグレードのアプローチとは?――「Oracle Upgrade Seminar」レポート

いまだ世界的な景気低迷が続く中でも、欧米の先進企業はデータ分析の重要性への理解から最新のDWHやBIなどへの投資を積極的に進めている。一方、国内に目を転じると、旧式のデータベース環境を長期間使い続け、最新のデータ活用技術を享受していない企業が少なくない。2011年5月18日に開催された「Oracle Upgrade Seminar」では、そうした状況を打破すべく、著名アナリストや日本オラクルのコンサルタントらにより、最新のデータ活用術や、それを賢く享受するためのデータベース・アップグレードのアプローチが紹介されたほか、参加者とのQ&Aセッションが実施された(編集部)。

■IT部門は今こそ、専門知識と斬新なアイデアでイノベーションに貢献するとき
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「IT部門は能動的に社内のイノベーションにかかわるべき」と語る、ITRの内山悟志氏
 最初の基調講演に登壇したのは、IT調査会社アイ・ティ・アール(以下、ITR) 代表取締役社長の内山悟志氏だ。「ビジネス貢献待ったなし、情報システム部門が今すぐやるべきこと」と題した講演の中で氏は、国内企業の最新のIT投資動向を紹介したうえで、3月に発生した東日本大震災によって2011年度のIT投資は若干減速するものの、マイナス投資にはならないだろうとの見方を示した。

 「今回の震災により、多くの企業がITシステムが健全に機能しなくなることへの危機感を募らせ、経営者らもITシステムの重要性を再認識した。今後はそれを踏まえ、質的にも変化した新たなITプロジェクトが発足してくるだろう」(内山氏)

 また内山氏は、「従来からの "ITのBCP"のみならず、"ITを活用したBCP"への関心も急速に高まっている」と指摘したうえで、調達、生産、物流計画の変更、代替を迅速に行うビジネス・プロセス革新、停電や交通情勢の悪化が生じたときでも事業継続が可能なワークスタイル改革、データセンターの被災や停電に対する予防、復旧、代替が可能なIT構造改革など、従来からの課題が喫緊の課題に変化している状況も報告した。

 その一方で、グローバルな競争が激化し、デフレ・スパイラルが続く不透明な経営環境において、新たな成長が見込めないという閉塞感や危機感から、企業の間で従来の戦略をブレークスルーするイノベーションへの期待が高まっている。内山氏はジェフリー・ムーアの著書からの引用も引き合いに出しながら、「市場発展のライフサイクルにおける各ステージと、起こりうるイノベーションの間には相関関係がある」と説明したうえで、市場ライフサイクルで注目すべきイノベーションを、「黎明期:顧客価値創造イノベーション」、「成長~成熟期:顧客価値増幅イノベーション」、「衰退期:顧客価値再生イノベーション」の3つに分類した。

 「これら3つのステージにおけるイノベーションと企業ITの直接的/間接的なかかわり方を整理することで、IT部門に期待される新たな役割が浮かび上がってくる。IT部門こそ、全社的/グローバルな俯瞰的視点で組織間の調整と相乗効果を促進する役割を担い、現状や過去の成功や失敗に縛られることなく、専門的な知識と斬新なアイデアで抜本的な改革を提案できる立場にある」(内山氏)

 そのため、これからのIT部門には、ビジネス指向、グローバル指向、アーキテクチャ指向、マネジメント指向、分析指向、技術指向といった指向性のうち、複数を備えることが求められるという。ただし、留意すべきこともある。それは技術力の低下だ。内山氏は、「開発のアウトソーシングが進む中で、ビジネス指向やマネジメント指向に傾倒するあまり、アーキテクチャ指向、技術指向が弱まり、結果としてITガバナンスの力を弱めてしまう企業/IT部門が見られる。これでは本末転倒だ」と警鐘を鳴らし、講演を締めくくった。

■「固める」、「下げる」、「上げる」、「広げる」――経営層も納得する賢いデータベース・アップグレードのアプローチ

 内山氏に続いては、「待ったなしのシステム更改、アップグレードによる新システムの目玉をどこに置く?」と題し、日本オラクル テクノロジー製品事業統括本部 データベースビジネス推進本部の内野航太氏(プラットフォームビジネス推進部 担当シニアマネジャー)が、最新のデータベース技術を用いたアップグレード方法をアドバイスした。

 「データベース環境の更改を伴うプロジェクトでは、上申/稟議しても『単なる入れ替えではROIが見えない』という理由から、稟議が通らないことがある。しかし、古いバージョンのままでソフトウェアを使い続ければ、通常では起こらないようなトラブルに見舞われ、結局はコスト高になるおそれがある」(内野氏)

 そこで日本オラクルでは、Oracle Directにおいて、バージョンアップ支援のための無償アセスメントを提供しているが、この1年間で問い合わせが急増。統合化や災害対策を含めた、より信頼性の高いシステムへの更改に向け、経営層も納得する計画作りの支援を求められるケースが多いという。そうした支援活動の実績も踏まえ、内野氏は現��、次の4つのキーワードを用いたシナリオを推奨しているという。

 そのキーワードの1つは「固める」だ。これはソフトウェア製品のライフサイクルやサポート期間、現状の課題および解消方法に関する基本情報を収集しておくことを指す。また2つ目は「下げる」であり、ストレージ、サーバ、運用、パフォーマンス管理にかかわるコストを下げ、サービス・レベル改善の見通しを立てる。3つ目は「上げる」で、ここではバージョンアップに際してアップグレード・ツールなどを活用し、作業効率とテスト品質を高める。そして4つ目が「広げる」であり、単なるバージョンアップだけでなく、災害などあらゆる障害に耐える環境を整え、同時にパフォーマンスも高めてハードウェアを有効活用し、新たなビジネスを拡大していくのだという。

 また内野氏に続いては、「戦略的データベース・アップグレード ~システム更改・統合プロジェクトを短期間かつ低リスクで遂行!」と題して日本オラクル コンサルティングサービス統括 テクノロジーソリューションコンサルティング統括本部 マネージングプリンシパルコンサルタントの内村友亮氏が講演。データベースの仮想化にポイントを絞り、システム更改の成功に欠かせない新アーキテクチャの検討や安全な移行計画の立案について論じた。

 昨今、仮想化技術が進展し、システム・インフラの大半でリソースの無駄を排除する取り組みが定着しつつあるが、「意外と進展していないのがデータベースの分野」(内村氏)だという。アップグレードをあきらめた旧バージョンのデータベースや使われていないハードウェアなどが運用コストを圧迫したまま、それらをなかなか減らせないのが現実なのだという。

 その解決策となるのが、リソース共用と統合運用をデータベースの仮想化で実現する「Oracle Grid Infrastructure」だ。このOracle Grid Infrastructureを用いることで、リソースを柔軟に配置可能なインフラを構築し、ハードウェア・コストを削減することが可能になる。実際にこれを活用してプライベート・クラウドを構築した事例もあり、システム・ライフサイクルが異なる新旧バージョンのクラウドを並行稼働させるという方式で、データベース・サーバのインフラ設計とデータベースの使い方を標準化した。その結果、アプリケーションをどちらのクラウドで稼働させるかを選択できるようになり、インフラ設計コストを削減し、高品質なアプリケーション開発基盤を実現できたという。

■現場の生の声にオラクルが答えたQ&Aセッション

 3氏の講演に続いては、「Q&Aセッション:なぜ、いまアップグレードが必要なのか、を改めて問う」と題し、来場者から寄せられた質問/疑問に、日本オラクルの内野氏、内村氏がその場で答えるというユニークな企画が実施された。そこで最後に、同セッションで出た質問/回答の中から、主なものをいくつか紹介しよう。

Q:アップグレードに際しての各種リスクを減らす方法は?

A:「アプリケーションを正常に動作させるために工数がかかるというリスクに対しては、オラクルが提供するマニュアルやサポート文書を参考にアップグレードに向けたテスト/リハーサルのタスク・リストを作ることで対処できる。また、パフォーマンス維持のために必要な工数に関するリスクについては、Oracle Databaseコストベース・オプティマイザの動きを十分に理解してほしい」

Q:独自のカスタマイズが多い場合でもアップグレード・ツールは有効か?
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会場からの質問に1問1答形式で答える日本オラクルの内野氏(左)と内村氏
A:「Oracle7や8の時代には職人技でパラメータを設定するなどのチューニングがよく行われたが、11gは新しいハードウェアで最適な性能が得られるようにデータベース・コアを設計しているため、従来のパラメータをそのまま使うと不具合が生じることがある。過去のパラメータは使わず、デフォルト状態からチューニングするようにしてほしい」

Q:Oracle Database9iから同11gR2に移行する場合に、大きく変更が生じる部分は?

A:「Oracle Database 11gでは、従来のルールベース・オプティマイザがサポートされず、コストベース・オプティマイザとSQL Plan Managementを併用するのがベスト・プラクティスとなる。サポート・サイト『KROWN』のUpgrade Companionの『動作変更』というセクションでは、9iと11gR2との間で生じたアーキテクチャの変更点を説明しているので、バージョンアップの際に確認してほしい」

Q:Oracle Database9i/10gから同11gへの典型的な移行手順と注意点は?

A:「従来はエクスポート/インポートによる移行が主だったが、データ量が膨大になった今日では、OSが変わらないのならコマンドラインでのアップグレードが標準的。アップグレード用のスクリプトとともにダウングレード用のスクリプトも提供しているので、切り戻しの際も安心。OSが変わる場合は、ダウンタイムを最小化できる『Oracle GoldenGate』の利用を推奨している」

Q:「ROIが不明確」と却下されない稟議書を作るポイントは?

A:「ある製造業の例では、最新のOracle Database 11g Enterprise Editionに標準で備わるデータ・レプリケーション機能『Oracle Data Guard』を使い、2個所の工場のシステム環境を互いにバックアップ・サイトに見立てて構成している。これは、アップグレードと耐障害性の確保を両立させた好例だと言える。また、ストレージ・コストの削減に向けたILM(Information Lifecycle Management)への取り組みも増えつつあり、ギガバイト当たりのストレージ単価とILM化して圧縮した場合の単価を比較することで、定量的な効果を見積もることができる。

 す���に運用コストやストレージ・コストの削減が進み、システム運用の改善だけではコスト・メリットが出ないという場合は、業務部門や営業部門にまで改善範囲を広げてKPIを設定し、定量的に評価できるようにすれば、経営層の理解を得やすくなる。

 さらに、ハードウェアの保守切れ、OSのサポート切れが見えている場合は、7、8年程度の中長期計画を作ることを勧める。塩漬けにした場合、単純に更新した場合、抜本的に変革した場合などに分けて大まかなTCOを示し、グラフ化すれば、経営層もリスクを把握しやすい」

Q:アップグレードに対してエンドユーザーなどの理解/協力を得やすい方法は?

A:「社内でシステムをどうとらえているかによって変わる。単なるアップグレードだとコストと見られてしまうケースが多いが、プライベート・クラウド構築やインフラ標準化のためのアップグレードだというメッセージを明確に出せば、ビジネスに貢献するための投資だと理解されやすいだろう。

 また、アプリケーションとインフラの担当部門が分かれている場合、アップグレードはインフラ部門だけのプロジェクトとなり、アプリケーション部門やユーザー部門の協力が得にくくなるケースが多く、結果としてテストの質の低下や不徹底などの問題が起こりがち。それらの部門を早い段階で巻き込み、相互に理解を共有したうえで、PoC(概念検証)を行って工数を見積もったり、十分なテスト計画を立ててテストを実施したりすることで、影響を最小化できるだろう」

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