ソフトバンクはビッグデータを武器にサービスを向上し、ビジネスを拡大する──「Oracle Big Data Forum」レポート

これまでは活用が難しかった企業内外に存在する大量および多様な構造のデータを収集/分析し、その中からビジネス上の価値ある知見を引き出す「ビッグデータ」への取り組みが本格化している。かつてはテクノロジー寄りの観点で語られることが多かったが、今日ではビッグデータを戦略的に活用し、ビジネス上の成果を上げる企業が国内にも登場し始めた。日本オラクルが2013年3月14日に都内で開催した「Oracle Big Data Forum」では、そうした企業の1社として、ビッグデータを活用して移動体通信サービスの向上やオンライン/オフライン・マーケティング事業に取り組むソフトバンク・グループの事例が紹介された。(編集部)

ソフトバンク・グループは「ビッグデータの宝庫」

ソフトバンクテレコム、ソフトバンクモバイル代表取締役副社長兼COOの宮内謙氏
 Oracle Big Data Forumのゲスト・スピーカーとして初めに壇上に上ったのは、「価値ある情報を創り出す ~ビッグデータへの取組み~」と題して講演を行ったソフトバンクテレコム/ソフトバンクモバイル代表取締役副社長兼COOの宮内謙氏である。宮内氏は、ソフトバンク・グループが約8カ月間にわたって取り組んできたビッグデータ・プロジェクトの概要および狙いと、その成果、今後の展望について語った。

 近年、インターネット上ではデータ量の爆発的な増加が加速しているが、その一因となっているのがスマートフォンの普及だ。消費者が常時携帯し、何かあればインターネットにアクセスしてさまざまな情報を引き出すことのできるスマートフォンの浸透により、情報やサービスへのアクセスが極めて身近になったことが、消費者に関するさまざまなデータを蓄積し、活用するうえでの基盤となっているのである。

 インプレスR&Dの調査によれば、2008年には2.6%だった国内におけるスマートフォンの普及率は、2012年には39.8%にまで拡大。それを裏付けるように、「2009年第4四半期との比較で、2012年第3四半期にはスマートフォン版Yahoo!Japanのページ・ビューは42倍、Yahoo!オークションでのスマートフォンを介した取扱高は28倍と急速な拡大を見せている」(宮内氏)という。

 Yahoo!Japanをはじめ、960社以上のインターネット企業を擁してサービスを展開するソフトバンク・グループは、「まさにビッグデータの宝庫」(宮内氏)なのである。

「データ接続率の改善」と「ユーザー意識の調査」にビッグデータを活用

 ソフトバンク・グループではこれまで、ビッグデータ・プロジェクトの第1段階として、グループ社内での取り組みを進めてきた。それらのうち、Oracle Big Data Forumでは、ソフトバンクモバイルのスマートフォン・ユーザーの利便性向上を図る「データ接続率改善」と「ユーザー満足度調査」の2つの取り組みが紹介された。

 データ接続率改善の取り組みについて説明を行ったのは、ソフトバンクモバイル モバイルソリューション本部情報企画統括部の柴山和久氏だ。

ソフトバンクモバイル モバイルソリューション本部 情報企画統括部の柴山和久氏
  「これまで、ソフトバンクのデータ通信は他のキャリアに比べてつながりにくいと言われてきたが、2012年7月以降は800MHz帯による通信サービスであるプラチナバンドの導入も進めてきた。その結果として、接続率がどう変わったのか、接続率改善の取り組みはユーザーに実感されているのかといったことを把握し、より費用対効果の高いエリア対策を行うことを目的に、大規模なビッグデータ解析を行ってきた」(柴山氏)

 具体的には、Yahoo! Japanなどソフトバンク・グループが提供しているサービスを利用するためのスマートフォン・アプリを介し、通信キャリアや位置情報、端末の圏内/圏外情報、実通信の可否情報など個人情報以外のデータを収集し、それらのデータを地図情報と重ね合わせることにより、実際の接続状況を把握するという作業を行った。スマートフォンから収集する情報は月間約3億件、地図情報と組み合わせたエリア解析データの件数は月間8000万件に上るという。

 こうした大規模なデータ収集を行うメリットは、「従来のようなメディアや調査会社による局所的な調査ではなく、ユーザーの実際の利用シーンに合わせて接続率を把握できる点にある」(柴山氏)という。

 こうして1億件以上のデータを解析することによって導き出された1つの結論は、「96.8%の接続率で、ソフトバンクが全国におけるスマートフォンのデータ接続率ナンバー1である」という事実だと柴山氏は強調する。同社がテレビCMで大々的に謳う「接続率ナンバー1」の根拠となっているのは、この解析結果なのである。

 こうして現状の詳細な調査を行うだけでなく、同じデータは電波状況の改善にも活用されている。1日当たり300万件以上集まるデータを基にプロファイリングすることにより、各基地局エリア内で電波状況の悪い場所をピンポイントで特定。その場所に新たな基地局を設置することで、効果的に状況改善を行っているのだ。

 「電波状況の改善は、他社との比較が目的ではない。自社の弱点を正確に把握し、適切な対策を立案/実施するための客観的な指標となるよう、ビッグデータからプロファイリングを行っている。ビッグデータは、膨大なデータの中から価値ある情報を導き出すための取り組みだ。我々は現在、ビッグデータのプロファイリングに関しては自分たちがトップ・ランナーだという自負を持って取り組んでいる」(柴山氏)

ソフトバンクモバイル情報システム本部の植野正徳氏
 一方の「ユーザー満足度調査」については、ソフトバンクモバイル情報システム本部の植野正徳氏が紹介した。これは、Twitter上でソフトバンクモバイルに関してつぶやかれた発言を分析し、「実際に電波状況が改善されているとユーザーが実感しているか」を明らかにしようという試みである。

 具体的には、2012年3月から2013年1月にかけ、Twitter上の約7200万件の発言を無作為に抽出。自然言語処理や感情分析が行える日本オラクルの「Oracle Endeca Information Discovery」を用いて分析を行い、同社名とともに頻繁につぶやかれているキーワードの抽出や、その発言の内容が「ポジティブ」なものか「ネガティブ」なものかの判別を行い、電波状況に対するユーザーの感情がどう変化しているのかを調べた。

 この分析からは、2012年のプラチナバンド発表直後に、改善への期待感からポジティブな発言が多くなり、その後は一時ユーザーが改善状況を実感できずにネガティブな発言が増えるものの、後にポジティブな感情が優位に転じるというユーザー感情の推移が確認できたという。

 「プラチナバンドの導入直後は、展開が追いつかず、ユーザーにそのメリットを実感していただきづらかったが、時間の経過とともに電波状況の改善を実感していただけるようになってきていることが、Twitterの分析からも確認できた」(植野氏)

 これら2つの社内事例では、Endecaのほかに、リレーショナル・データとビッグデータの大規模かつ高速な処理を得意とするシステム基盤としてオラクルのEngineered Systemsが採用されている。具体的には、各種の非構造化データの収集に「Oracle Big Data Appliance」が、非構造化データと構造化データを束ねたデータの体系化には「Oracle Exadata」が、そして分析および可視化には「Oracle Exalytics」が使われている。ビッグデータ分析のためのシステム基盤を構築するにあたり、これらの製品をオラクルが提唱するビッグデータ・アーキテクチャの上で導入/活用した事例は、ソフトバンク・グループが国内初となる。

オンライン/オフライン・マーケティングにも活用。ビッグデータがビジネスそのものを変える

 こうしたサービス品質/顧客満足度の向上に向けたビッグデータ活用例のほかに、宮内氏の講演では新たなビジネス機会をもたらすビッグデータ活用例として、Yahoo!における行動ターゲティング広告配信サービスが紹介された。

 Yahoo!の行動ターゲティング広告配信サービスとは、検索キーワードなどを基に見つけた特定ジャンルに関心を持つ消費者に対して広告を配信し、広告効果を高めるという手法だ。ソフトバンク・グループでは現在、この手法を発展させ、関心の高い消費者にクーポンなどを提供することで実店舗への集客拡大を図る「ウルトラ集客」と呼ばれるサービスを展開しており、すでに数社キャンペーンにおいて高い成果を上げている。

 また、2013年3月7日にソフトバンクテレコムとヤフー、イオングループが発表した業務提携では、ウルトラ集客の導入をはじめとして、店舗内で活用できるスマートフォン・アプリの提供などにより、集客から店舗内での商品選びやリコメンディング、タイム・クーポンの提示、購入までのインストア・ナビゲーション、ポイント管理までを含めた包括的なソリューションを共同で提供していくという。

 「スマートフォンの普及と、こうした一連のソリューションにより、マーケティングの方法やビジネスそのものが変化していく。ICTはこれまで、企業の生産性向上やコスト削減、コミュニケーションの改善に有効なソリューションとして認識されていた。しかし、今やビッグデータの活用により、ICTはビジネスそのものの拡大にも大きく寄与できるようになったのだ」(宮内氏)

 ソフトバンク・グループでは今後、ビッグデータ・プラットフォームの社内での活用をさらに進めるとともに、同社とパートナー関係にある企業が持つデータとの融合も図りながら、さらなるビジネス・ソリューションの拡充と提供を目指す。

 「ソフトバンク・グループにおけるビッグデータ活用は現在スタート段階にあるが、この仕組みによって確実に世の中が変わるという確信を持って取り組んできた。我々は今後、ITサービス・カンパニーから真のビジネス・パートナーへと進化していく。パートナーの皆様による、より効率の良いマーケティング、効率の良い商品開発をサポートできるよう全力で取り組んでいきたい」(宮内氏)

ビッグデータの活用では、構造化データと非構造化データの組み合わせがカギになる

 続いて登壇した日本オラクル製品事業統括 専務執行役員の三澤智光氏は、宮内氏の講演を受けるかたちで「ビッグデータからお客様価値を創出する~先進事例に見る、新たな情報活用のトレンド~」と題した講演を行い、主に海外企業におけるオラクル製品を用いたビッグデータ活用事例を紹介した。

 例えば、米国シカゴ市警察では、2012年5月のNATOサミット開催期間中の治安維持や犯罪抑止を目的に、SNS上の情報と管内の署員配備計画のデータを組み合わせた分析が行われた。具体的には、期間中にサミットに関して発せられたTwitterのつぶやきの内容をピックアップし、発言のあった場所の位置情報を基に地図上に表示していく。発言の内容が「ポジティブ」か「ネガティブ」かも併せて分析し、その結果も反映した“つぶやきマップ”を警察官の配備状況と照らし合わせることにより、暴動などを未然に防ぐべくより効果的な配備に最適化していくといった使い方がされたという。この発言内容の分析にも、Oracle Endeca Information Discoveryが利用された。

 これは行政による活用事例だが、同様の仕組みをビジネスで活用する動きも活発化している。

日本オラクル製品事業統括 専務執行役員 三澤智光氏
 「スマートフォンやSNSの普及により、従来のような『過去の事実』だけでなく、ユーザーの『現在の事実』や『内面の心理』に関するデータも大量に収集できるようになった。これがビッグデータ時代であり、そのデータを従来からある社内の構造化データ(RDB内のリレーショナル・データなど)と組み合わせてユーザー・エクスペリエンスの向上に生かすことが、ビジネス上の新たな価値を生む」(三澤氏)

 事例として紹介された、ある大手衣料製造小売業では、商品に関してSNS上で発せられるユーザーの感想を分析し、ユーザーの評価や嗜好を加味したマーケティング施策を行うことにより、オンライン・ストアでの売上向上や、実店舗での売上向上につなげている。この分析では、SNSでの書き込みからキーワードや感情(ポジティブ、ネガティブ、ニュートラル)などを抽出して分析し、企業名によるライバルとの比較、地域や世代属性の違いによる好みや感情の変化などを読み取るといったプロファイリングが行われているという。


 三澤氏は、「ここでポイントとなるのは、構造化データと非構造化データの組み合わせだ」と強調する。氏は野村総合研究所による市場調査「企業情報システムとITキーワード調査(2011年8月~9 月)」における「情報活用の成熟度における、日米間の格差」に関する調査結果も引用しながら、「活用目的の明確化」や「データ分析スキルの向上」といった課題において、日米間に大きな格差が存在することを指摘。「実はこれは、ビッグデータの活用以前に、国内企業ではデータ分析自体が行えていないという課題があることを示している」(三澤氏)と警鐘を鳴らした。

 「ビッグデータ・マネジメントは、単に社外に存在する非構造化データを活用すればよいという話ではない。すでに社内にあるヒト、モノ、カネに関する構造化データを、すぐに使えるかたちに整備し、それを非構造化データと結び付けるという視点が重要になる。こうしたトータルでのデータ活用が、ビッグデータを生かし、ビジネス上の価値を生むことにつながっていくのだ」(三澤氏)

 そうした取り組みの成功例として三澤氏は、スバル・オブ・アメリカが行った顧客データの整理によるセグメント別の訴求事例や、ファンケルが「Siebel CRM」によってチャネルごとにデータを整備/統合し、個々の顧客にオファーやレコメンデーションを効果的に提示している例などを紹介した。

ビッグデータ活用はビジネスの機会を瞬時に捕らえる「Fast Data Processing」へ

 三澤氏はさらに、広義のビッグデータ活用スタイルとして、過去に生み出され、蓄積されたデータからビジネス上の価値を引き出す「Big Data Management」に加えて、最近ではさまざまなデバイスからリアルタイムに取得したデータを基に、瞬時にビジネス機会を捕える「Fast Data Processing」が新たなトレンドになっていることを紹介した。

 Fast Data Processingでは、各種のセンサー類から集めた情報を瞬時に処理し、次のビジネス・アクションへとつなげるための仕組みが必要になる。そこで用いられるマシン・ツー・マシン(M2M)の通信技術やイベント処理技術などは、過去に蓄積されたデータを処理するための技術とは異なったものとなる。また通常、センサーによって自動的に生成されるデータの量は、人が意図的に生成するデータよりも膨大であるため、それを処理するシステムのキャパシティや可用性についてはさらに高いレベルが求められる。

 三澤氏は、モトローラが構築した監視カメラ映像と違反車情報を組み合わせた違反車両の早期発見システムや、ナイキによる「Nike+ Digital Sport」をFast Data Processingの好例として挙げた。

 Nike+ Digital Sportでは、ユーザーが身に付けている腕時計やリスト・バンド、スマートフォンなどのデバイスから、自動的にシステムへとデータが送られる。そのデータにより、走行距離や走行速度などユーザーの運動状況をモニタリングすることで、従来は難しかったメーカーによる商品購入後のユーザー・エクスペリエンスの向上や、新たなマーケティング手法の開発を可能にしている。グローバルで800万人を超えるユーザーを抱えるNIKE+を支えるシステムは、Oracle CoherenceやOracle Exadata、Oracle Spatialなどオラクルの製品を利用して構築されているという。

 三澤氏は最後に、まとめとして「『時間』はすべての企業に平等な経営資源。そこでは、多種多様なデータをビジネス価値に変換するスピードこそが勝敗を分ける重要な要素になる。そのスピードを向上させるための取り組みとして、オラクルはデータベースの技術革新を続け、大きな成果を上げてきた。加えて、データを取得、体系化、分析して価値を見出すための製品ポートフォリオも拡充しており、圧倒的なパフォーマンスを提供するEngineered Systemsも提供している。これまで多くの企業と協力して取り組んできたさまざまな活用事例から得たノウハウにより、これからビッグデータの活用を始める企業に対しても多くの価値を提供できるはずだ」と述べて講演を締めくくった。

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