前回このブログでご紹介したIFRSパートナーコンソーシアムが発表した第1期のアウトプット「IFRS対応基本方針」全文です。
ある監査法人の先生からは「非常のユニークな整理」とご評価を頂きました。
読者の皆さんからもご意見、コメントなどいただければ幸いです。
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IFRS(国際会計基準)対応、今、何をなすべきか?
~ 変わる業務、プロセス、システム...将来、企業が求める姿に向けて
近年、IFRS(国際会計基準)による世界的な会計基準の標準化が進んでいる。欧州諸国で2005年から採用されたのを皮切りに、世界各国で次々と採用が決定され、米国でも2014年から段階的な強制適用が計画されている。
わが国においても、2009年6月、金融庁から、今後の日本企業のIFRS任意適用及び、強制適用に向けてのロードマップが示された。関連会計基準の整備も進みつつあり、日本企業にもいよいよIFRS導入への取り組みが求められる。
IFRSとは、企業において何を意味するのか
IFRSの導入に向けては、グループ会計方針の策定、業務プロセスや情報システムの見直し、IFRSに精通したリソースの確保と経理体制の再構築等、J-SOX以上に企業グループ一丸となった取り組みが必要となる。注意したいのは、あまりに「義務感」が強調されてしまうと、IFRSに対する視野を狭め、導入作業や新業務の負担、IFRS適用に対するモチベーションの低下を引き起こす恐れがある点である。IFRS導入に際しては、「外的メリット」、「内的メリット」を理解し、企業経営の改革の機会として、戦略的に取り組むことが重要である。
「外的メリット」は、IFRSの特徴そのもので、IFRSを適用し、外部に開示することにより期待できる効果である。例えば、グローバルレベルでの企業間比較可能性、海外市場における資金調達機会の広がりと調達コストの低減、クロスボーダーM&A対応能力の拡大が挙げられる。
一方、「内的メリット」としては、計数管理の統一によるグループ経営管理の高度化、グループ経理標準化による業務効率化、ガバナンス強化や内部統制強化等が挙げられる。これらのメリットは、まさに、IFRSを「義務」としてとらえるのではなく、「チャンス」としてとらえる発想なくしては生まれない。
IFRSが企業にもたらすものは、企業の意識によって大きく異なる。この機を逸すれば、これほど大規模な制度変更を契機としたグループ経理・経営管理体制の改革を実現する機会はないかも知れない。今回のIFRSへの取り組み方が、将来の企業の運命を左右することにもなりかねないであろう。
IFRS対応において考えるべき、企業の目指す経営モデル
IFRSの導入は、企業のビジネス基盤全体、マネジメントの意思決定プロセスにも影響を及ぼす。このため、企業が置かれている環境、自社のビジネス基盤の整備状態、そして、経営者が目指す目的、すなわち、「目指すべき経営モデル」により、その取り組み方は変わってくる。
我々は、IFRS対応の「ABCモデル」と称して、この「目指すべき経営モデル」を、以下の3つに類型化することを提唱する。
A. まず一つ目は、「グループ経営基盤の最適化」を目指す、アドバンス(Advance)モデルである。IFRSの概念フレームワークや将来キャッシュフロー重視、グループ会計方針の統一等といった基本思想を、グループ経営に積極的に取り込む。そのために、業務・プロセス・システムをグループで標準化し、これを支えるビジネス基盤を再構築することで、経営意思決定や組織体制を最適化、企業競争力を高める取り組みである。
B. 二つ目は、「経営資源の選択と集中」を目指す、バランス(Balance)モデルである。グループ経営の基礎情報はIFRSベースで管理し、ビジネス基盤の整備は経営上の重点領域から着手する。現在の経営管理レベルや、業務・プロセス・システム・体制は維持しながら、重点領域から必要に応じ順次向上させていく。
C. 三つ目は、「財務報告対応」を主眼とする、コンプライアンス(Compliance)モデルである。IFRSの適用による決算処理、開示資料作成に対応するための、業務・プロセス・システムの変更は、IFRSへの組み換え仕訳取得に必要な最小限の範囲で対応する。各社のマネジメントや決算処理は、従来どおり現地基準で行うが、連結においてはIFRSベースで経営管理を行うこととなる。
企業が「目指す経営モデルのABC」を決定するためには、まず、IFRSにおける影響分析を実施する必要がある。影響分析では、最初に、IFRS適用による会計上の論点、すなわち勘定科目毎の会計処理への影響を金額面から把握する。さらに、業務・プロセス・システムなどビジネス基盤全体の何処に影響を及ぼすかを把握する。そして、それらの影響と現状の事業のグローバル展開状況、経営情報の仕組み、業務・プロセス・システムの標準化、ガバナンス等を総合的に検証することにより、「目指すべき経営モデル」が見えてくるはずだ。
さらに、経営者が強く認識しなければならないことは、IFRS適用への取り組みは、初年度適用のためだけではなく、「適用したその後のビジネス基盤を構築している」ということである。適用した後、5年、10年先の企業および事業の姿を描き、そこから導きだす成長のシナリオを明確にすることが必要である。その結果、コストや成長ステップを考慮し、Complianceモデルから段階的にAdvanceモデルへ近づけていくといった、アプローチの採用も有効だろう。
IFRS対応に向けた、システムのあり方
IFRS導入においては、業務や会計領域だけでなく、それを支えるシステムへの影響も大きい。IFRSに対応する会計システムを考えた場合、IFRSへの調整・組替手順とシステム対応範囲が重要な検討課題の1つとして取り上げられる。対応すべきシステムの実装は、大きく以下の3つのパターンが挙げられる。(図参照)

まずは、連結時にIFRSへの調整・組替を実施するパターンである。グループ各社から報告用データを収集し、連結ベースでIFRSへの組替を実施する。この場合、データ収集の効率化、プロセスの自動化、IFRSへの組換えの仕組み等がシステムに求められる。対応コストを押さえ、対応時間を短縮することが可能だが、調整項目が限定されない限り、本社側の決算業務負担は大きい。
次に、グループ各社で、IFRSへの調整・組替を実施するパターンである。この場合、単体会計ベースで、現地基準とIFRSでの残高保持ができる仕組み、または、複数元帳の対応といった機能が会計システムに求められる。連結対象会社が多い場合、連結決算の早期化が期待でき、グループにおける勘定科目やセグメントの統一化が効果的に行える。しかし、各個社の決算業務担当者へのIFRSの高い理解が求められる。
そして最後は、グループ各社の業務システムで、IFRSベースでの標準化を実施・展開するパターンである。ERPシステムを効果的に導入し、経理だけでなく業務全般のグループ標準化やガバナンス強化、データの精度を向上させる。また、個別業務からIFRSへの対応を行うことにより、仕訳や処理の自動化を促進することで連結処理の負荷が軽減され、ひいては決算処理の早期化、日次・週次での実績管理へと、より大きな効果を上げることができる。しかし、グループ全社への展開には、時間とコストを要することを慎重に考慮しなければならない。
付け加えるならば、システムの実装方式は一つとは限らない。システム適用範囲について、どこからはじめるか? どの企業はどこまで対応するか? いつ対応するか? ── など、全グループ会社を対象とした検討を進めていく必要がある。IFRS導入におけるシステムの検討においても、企業がグループ全体としての「目指すべき経営モデル」と合わせて検討していくことが、効果創出の観点から不可欠である。
IFRS対応に向けた、システム構築ロードマップ
会計システム構築に必要な主要ステップと想定期間を考えてみると、以下のように描くことができる。
・構想・計画策定(3~6ヶ月)
IFRS対応における「目指すべき経営モデル」の方針策定とともに、プロジェクト実行方針、マスタープランを定義。(例えば、「海外拠点のオペレーションを全面的に見直し、IFRS適用開始までに業務システムを刷新する」、「IFRS開始時点では、連結ベースのみ対応を行い、中長期的に各社の業務・会計システムの見直しを行う」)
・各種方針検討(3~6ヶ月)
構想計画に基づき、新たな経営管理、会計方針、内部統制対応等を定義する。また、IFRS対応に向けた人材育成方針策定も重要である。
・グループ共通機能設計・開発・テスト(12~24ヶ月)
単体・連結のグループ共通機能、及び、共通コードやマスタ等の設計・開発・テストを実施。
・グループ展開、各国ローカル機能対応
グループ共通機能を各拠点にロールアウトしていくと共に、各国の税法対応など必要に応じた機能の整理、構築、展開を行う。
システムの構築には、既存システム資産の活用、システム機能の導入タイミングといった視点を考慮する必要がある。IFRS対応に際しては、様々な要件の反映や既存システム資産の老朽化度合いを考慮し、抜本的にシステムの再構築を行う方法、または、既存システム資産を生かし、必要なところから取り組んでいく方法等が考えられる。導入タイミングにおいても、一度にビッグバン的に全機能を構築する方法、または、経営モデルとあわせて、段階的に対応範囲を拡充していく方法が考えられる。
IFRS導入において、システム対応を考慮することは不可欠であり、また、同時に、業務やシステム運用形態においても、クラウド・コンピューティングの採用や、シェアード化を考慮することが必要となる。そして、それらをいかに検討し、実現するかによって、プロジェクトの成果は左右されると言えるであろう。
今、IFRSに向けて企業が取り組むべきこと
IFRSでは、グループ各社の所在国・地域を問わず、原則として、グループ内のすべての会社に適用する会計基準は単一であることを義務付けている。これまで述べてきたように、IFRSへの取り組みは、非常に多岐に渡る事項を、経営レベルから会計実務のレベルまで、グループ全社において整合性をもって進めていくこととなる。それは、2015年または2016年といわれる強制適用までの約5年間が、準備期間として決して十分な期間とはいえないことを示唆するのではないだろうか。現在、IFRSとして議論の最中であるIASBとFASB間のMOUに関連する中長期プロジェクト項目(退職給付、財務諸表の表示等)が存在することを理由に、自社のIFRS対応の検討や準備作業の着手を遅らせるという判断は避けるべきだ。
また、注意しておかなくてはならないのが、海外グループ会社からの報告財務諸表をIFRSで受けている企業である。海外でのIFRS対応が終わっていたとしても、それは当該グループ会社単位での対応である。親会社を中心とした、グループ連結レベルで、IFRS適用を検討すると、IFRS対応しているグループ会社であっても、会計処理はもちろんのこと、業務・プロセス・システムの見直しが必要になる場合も出てくるだろう。
IFRSは、原則主義がベースとなる会計基準であり、その導入の取り組みは、各社各様となる。自社にとって最適な方法を十分検討し、選択、推進していくことが重要になる。そのためには、まず、IFRSで対応すべきことや、IFRS導入を契機に経営管理を充実させたいポイントを見定め、自らの意思で、いつ、どのような対応を行うかを決定することが必要である。そして、早い段階で、仮説ベースであったとしても、対応の方向性を示すことが、IFRSを「義務」としてとらえるのではなく、「目指すべき経営モデル」実現の「チャンス」として、IFRS導入を計画的、効果的に進めることを可能にするだろう。
文章:IFRSパートナーコンソーシアム 有志一同
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